法務コンプライアンス担当ではなく人事部門がやるべきこと

 組織にはルールだけでなく、もう一つの重要な統制手段がある。それは、皆さんおなじみの「企業理念」や「行動指針」である。

 お客様に貢献することの重要性や、その場限りの利益を追うと結局は自らを厳しい状況に追い込むことなどは、多くの企業理念や行動指針において表明されているはずである。組織は、これらの基本的な考え方を日々の行動や意思決定に反映させ、また、この内容とその重要性をしっかりと認識している経営幹部、管理職の養成に注力することで、規律を保ち長期的な繁栄を確保する。そしてこの領域は、法務コンプライアンス担当ではなく人事関連の担当がカバーすべきものである。

 本件でも、経営者や経営幹部がルール設定をして、それらを伝達する際に、もし企業理念や行動指針による統制のことが頭にあれば、このルール設定だけでは不完全であることを十分に理解できたはずだ。そして「お客様の不利益になるような行為をすることは企業理念や行動指針から見て許されない」ことで、「そんなことをすることは断じて許されない」というコメントがついた形でルール説明がなされたはずであろう。(注)

 そうであれば現場の営業課長も、「ルールに違反しているわけではないな」などと言って、問題を引き起こす行為を容認するような言動はせず、「ルール的にはNGではないかもしれないが、経営理念にも行動規範にも合致しないから、絶対にNG」と即座に否定できるはずである。

 コンプライアンス問題は、法務コンプライアンス担当だけでなく、人事担当者が一緒になってその発生を防いでいかなくてはいけない。企業理念や行動指針の浸透、それらをよく理解している経営幹部、管理職の育成。問題のある組織を作らないために人事関係者が果たす役割は、法務コンプライアンス担当と同等か、それより大きいと言っても過言ではない。

(注)組織の統制には一般的に、ルールによる統制、プリンシプル(思考/行動原則)による統制の2種がある。経営理念や行動指針の浸透とそれらを理解した人材の育成はプリンシプルによる統制である。ルールとプリンシプルは両輪揃って力を発揮することを理解しておきたい。