「いつかは課長に」と言ってズタボロになるまで働かせるのはやめよう

――ありがとうございます。最後は日本企業のこれからの人事制度や雇用システムがどうなっていくべきかについてお聞きしたいと思います。まずは海老原さんからお考えをうかがい、それについて佐藤先生からご意見をいただければと思います。

海老原:まず日本の大企業の大卒男子の給与体系を見てください。赤い線が課長になった人、青い線が部長になった人で、ガンガン上がっていく、これは当たり前なんですけど。一生ヒラの人でも35から50までの間に150万円も上がるんですよね。大企業だけじゃなくて中堅中小でも同じ形なのです。中堅企業だと従業員が500から990名くらいのところで107万円、中小企業で従業員が100人から499人のところだと136万。

[画像のクリックで拡大表示]

 学卒時、何もできなかった人が年齢とともにできるようになるから給与上がるのは分かります。でもキャリアの後半戦なら、腕が上がって課長や部長になるのなら分かりますが、ヒラをずっと続けてるのに150万も上がっていいのかという問題があると思うんですよ。「新しい時代の日本型雇用」のプロジェクトや「多様な働き方研究会」、近いところでは規制改革会議とか産業競争力会議などでもみんなこれについて語ってるわけなんですよ。

 今ジョブ型って騒ぎだしたときだって、トヨタ自動車の豊田章夫さんも経団連の中西さんも「みんな一生終身雇用で年功序列っていうのは無理ですよ」というところから入っているんですよ。ここをどうにかしなきゃいけないのに、全然関係ない「ジョブ型入れてみんな出世できますよ」という話になるのはおかしいんじゃないですかと。もうこの人たちは上がらないようにしなきゃいけないというのが今まで30年やってきた話だと思うんです。

 次の図を見てほしいんですが、「35を過ぎて仕事できない人は給与を750万を650万ぐらいまで下げますけど、仕事減らして早く帰っていいよ」という仕組みを作ったらいいんじゃないかというものです。家事育児もやらなきゃいけない年だから、こういう仕組みがいいのでは、と。昔みたいに、男だけが働いて大黒柱になる社会じゃなく、男女共同参画なんだから、夫婦で650万もらえば1300万円になるんですよ。今は夫婦双方がヒラでも、950万円×2で、大企業に入りさえすれば夫婦で2000万になっちゃうんですよ。こんな社会は僕おかしいと思ってるんですよ。

[画像のクリックで拡大表示]

 次の図で650万円のところを見ていただくと、中堅企業や中小企業でも650万までは昇給するので、大企業から中堅・中小企業への転職可能性もあるのです。

[画像のクリックで拡大表示]

 さらに次の図を見ていただくと、50歳で大卒で男性で課長になれている人の割合は45パーセントしかない。5割以上はヒラなんですよ。「いつかは課長になれる」っていうのは嘘なんです。なれると言って思いっきりズタボロになるまで働かせて、でもなれなかったって人が54パーセントいるんですよ。その代わりの補償として給与は950万円まで上げる、と。こういう仕組みなのはもうそろそろ止めた方がいいと思ってる。

[画像のクリックで拡大表示]

テクニカルスキルを磨いて上がるキャリアを作る

 この図を見ていただくと、入り口は誰でもチャンスがあってそれで誰でも頑張れば上れるって仕組みでその代わりハードに働くと。だけど途中から伸び悩む人たちは「損して得取れ」で、ジョブ型になって、給与は決まっていて時間も決まっていて、働き方も決まっててワーク・ライフ・バランス(WLB)充実になる。一方、企業からすれば残業代が廃止できて、人事権は縮小するけど、定昇も廃止できて雇用保障も薄くなって、いいことがある。労働者側からしたら早く帰れて、仕事が変わらないで済んで、勝手な転勤がなくなって、しかもこの形ならば年収はそんなに上がらないから完全定年延長でもいいと。こういう形で一勝一敗に整理して、行ってこいの関係を作るのがいいと思っているんですよね。

[画像のクリックで拡大表示]

佐藤:7割は海老原さんの意見に賛成です。私としては大卒の事務技術系のいわゆるホワイトカラーに関しては、もう一つ別のキャリアを用意した方が良いと考えています。

 今まで大卒でも課長にならないで定年退職する人が54%いる。しかし、現在でも大卒で企業に入ると課長以上を目指す人が多かったわけです。つまり、上へ上へと役職の階段を上るキャリアを目指しているわけです。しかし全員が課長以上になれるわけでなく、どこかで特定の階段に滞留したり、どこかで役職を下りることになるわけです。

 一つは役職定年がなくても、定年では役職を降りるのが一般的です。その時にショック受ける方が多い現状があります。海老原さんはずっとヒラで階段を上がらないというオプションを示されたわけですが、この問題を解決するためには、私が一つ別の選択があると思っています。

 例えばソフト開発のプロジェクトリーダーのままで、テクニカルスキルを高めて、次第により大きなあるいは高度なプロジェクトを担当するようなキャリアです。もちろんプロジェクトに参加するメンバーをまとめる仕事はするけれど、部下の人事考課や予算作りといった仕事はやらなくていい。いわゆる管理職の一部の役割は担わないわけです。

 ただしテクニカルスキルを高めて、担当するプロジェクトが大きくなれば給与が増え、他方で、プロジェクトが小さくなれば給与が減るわけです。つまりテクニカルスキルを高めることで、働きが評価されて給与も上がるキャリアを用意することがすごく大事じゃないかなと思います。管理職を目指すわけではなく、テクニカルスキルを高めるいわゆる専門職キャリアを目指すことができるようになれば。役職を降りるということもない。70歳になってもプロジェクトリーダーが務まれば、企業としてもいいわけです。

 現状ではそれがないから、年齢や勤続から「そろそろ彼は課長ね」という雰囲気がでてきて、部下マネジメントをやれない人が課長になったりするわけです。だからパワハラを起こしたりする。これを断ち切る必要があります。だから役職の階段を上に行くというキャリアを選ぶ人を減らすためにも、テクニカルスキル磨いて上がっていくキャリアを別に作るっていうことが、70歳まで働くことを考えたら大事だと思います。もちろん海老原さんが言われるように、夫婦で働くことを前提にしてですが。

海老原:スーパー専門職みたいなイメージですかね。

佐藤:スーパーではなく、普通にやる仕事というイメージ。プロジェクトリーダーとか。

海老原:編集ならデスクとか。

佐藤:ただ、いわゆる管理職の管理業務の一部がないわけです。

海老原:実務だけである程度のレベルを保っておけと。新人とは全然違う仕事をしているという話ですよね。そうしたスペシャリストが10~15パーセントいて、課長になる人が35パーセントくらいまで減って両方で50パーセントくらいになる。あとの5割は「ジョブ型」で早く帰る人。

――今は変化が激しく、今までやってきたことがITに代替されたり、AIみたいな新しいスキルの存在感が急激に高まったりする可能性があるわけですが、専門スキルで生きていくのは難しくないでしょうか。

海老原:いやいや逆ですよ。ヨーロッパの職業資格とか見たら本当に狭い範囲の仕事しかしていない。そういう人たちはいなくなるかもしれないけど、日本の場合はインターネットがはやりだして30年たっても、まだこの程度しか浸透してないんですよ。営業現場でインターネットを使ってタブレットを使うようになるまで10年かかった。日々ちょっとずつ変わっているだけだから、ちゃんと現場で実務職やってたらキャッチアップできますよ。管理職になって、お茶飲んじゃうからできなくなるだけの話だと思います。

佐藤:先を考えたときに、どういうスキルが大事かということは分からないと思うのです。例えば「5年後に私はどういう仕事を担当しているのでしょうか」と部下に聞かれても、管理職は説明できないでしょう。だから知的好奇心を持って常に世の中にアンテナを張って、人より早く変化に気づこうとするのが大事だと思います。