「ヒラ」にも偉い人と偉くない人がいる

海老原:でもここでまたちょっと分からないことが起きるんですけど、例えばジョブグレードや職能等級が高いのにもかかわらず、課長じゃなくてヒラやってる人っているわけじゃないですか。そのヒラの営業の中でも「この人はジョブグレード高いから、普通のヒラと同じ仕事しちゃいけませんよ」と。格上の、例えばクレーム処理とか、もしくは後輩指導といった役割を担う。外から見ると同じヒラってポストの中なのに、仕事内容が全く違う人がいるっていうのが日本の仕組みです。

 ポストが明らかに違うなら「ちゃんとこの仕事しなさい」というのが外から見てもわかるけど、同じポスト、ヒラの中に偉い人と偉くない人がいて、誰か審判員がいて「あなた今ちょっとその仕事をやっちゃ駄目よ」なんていうの見てない限りやらなくなると思うんですけども。これどうなんですかね。

海老原嗣生氏
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海老原嗣生氏

中島:すみません、僕は「ヒラというポスト」という考え方が理解できてなくて。ヒラとか管理職だとか、一般職だとか総合職だとかいうのは職務じゃないですよね。それは日本独特の雇用の区分です。「同じヒラなのに」と言うんですが、ヒラは区分であってその中でジョブがそれぞれに定義され、その大きさによってグレードが異ってくる。グレードが違うということは、元から同じ仕事をしていないということです。

海老原:米国では、例えば課長という課に1人のポスト、主任というチームに1人のいわゆるチームリーダといった形でポストになっていくじゃないですか。末端の営業で営業しかしない人だったら、ヒラというポストになるんじゃないですか。

中島:海外の感覚は違うのではないかと思います。日本の企業では、組織設計は「部」とか「課」というハコを一旦作って、そこに人を所属させていくという感覚を持ちます。日本以外では、戦略の遂行に必要な機能に基づいてジョブ(職務)が設計され、そこに個人を当てはめていきます。そのため、組織は業務報告先のレポーティングラインという紐帯による個人の結び付きを指して、「課」とか「部」というハコの概念は持たないんですね。

組織図はハコでなく人を書く

中島:日本企業しか知らない方によく驚かれるのですが、海外の企業は、そもそも組織図の書き方が全然違う。日本は「●●課」といったハコがあって、その中に名前がある。一方、向こうの組織図は人なんです。例えば私の配下には世界中の4つの地域で、それぞれ人事を束ねるディレクターがいます。その下には、それぞれ何人かのマネジャーがいます。私の感覚はレポーティング関係があるディレクター個人に対する結び付きで、ハコ全体に対する意識はありません。仕事の関係性はあくまで、人と人の結び付きなんです。

海老原:その「マネジャーが何人」というのがヘッドカウントになるわけですね。

中島:ただヘッドカウントの区分けは緩いんです。トータルで何人と決めたらその中でマネジャーを何人にするかとか、アシスタントマネジャーを何人にするかはローカルで決めていいんです。

海老原:まだ理解できていないのですが、組織のハコがなく、ボスの下に何人いるというチームだけが決まってくるということですか。

中島:人数だけでなく、それぞれが何の仕事をするが明確に決まっています。軍隊組織のタスクフォース(機動部隊)のようなものですね。それぞれが決まったジョブをこなして、戦略目標を達成するのです。誰が誰を査定するかはレポーティングラインで決まっています。

海老原:レポーティングラインが一つのハコと考えてはダメなんですか?

中島:レポーティングラインはあくまでも、個人と個人の結び付きで、そこに明確なハコのような意識はありません。だから私のレポーティングラインの中には、年金の数理管理を行うマネジャーが入ったりするのです。

海老原:フレキシブルなんですねえ。

中野:外資だと「日本の中では誰に報告」「グローバルでは誰に報告」といった具合に複数のレポーティングラインを持つ方は少なくありません。さらに組織やジョブは変わらないのに、レポーティングラインがたった半期で変わることもあるようです。ただ注意が必要なのは、これは「上司という人」が変わるのではなく、中島さんのおっしゃる通り、そのジョブのレポーティングラインが変わり、結果として「上司という人」が変わるだけなんです。

海老原:そうすると、知らない間に自分レポートラインの配下に20人の人がいて、とても管理しきれないということにならないんですか。日本だと10人いたらちょっと無理だからハコを増やしたりするのですが。

中島:20人ぐらいつくことはありますよ。それで無理だという話になると、もう一つ階層を作ってそこに分けるといったことは普通にあります。だけど今の流れはそうすると効率が落ちるし、できればフラットにしたいと。

海老原:とはいえ直の部下を持つ課長は5人から10人までしか見られないし、部長にしても課長クラスの人をせいぜい6人ぐらいしか見られないから、それをハコにしておいてハコからあふれたら次のハコを作るっていうルールがないと怖いんですけど。

中野:ありがちなのが、外資系企業の日本法人の方で、上司が辞めたのに、内部異動もできず、中途でもなかなか採用できなくて、残ったマネジャーが一時的にたくさんのメンバーを抱えるという状況です。ただ、採用ができればすぐに元に戻ります。日系企業で、上司が急に退職した際の兼務や空席のままという事象と表向きは似ていますが、日系企業は次の組織改変まで兼務や空席のままなことも多いので、思想はかなり異なると思います。

海老原:日本は「人が足りないから兼務になりました」とかボックスで考えて全部ボックスで処理していくけど、ボックスではないけど同じような兼務みたいなもんじゃないですか。

中島:そうです。本当は、そこを束ねる職務があるのだけど、たまたまか、意図的にか空席になっている。なので、業務継続のためにレポートラインを他にくっつけてしまえばいいという考えになるのでしょうね。

海老原:空白のところまでやってくれというわけですね。欧米は兼務がないなんて話はうそになってしまうなあ。兼務というボックス概念がないだけの話じゃないですか、正確には。

中島:兼務概念ありますよ。英語ではアクティングといいます。

中野:ただ日本もハコの設計と人員のはめ込みがそんなに厳密にできているわけではないとも思います。今まで見てきた中で、ハコの設計をするのは人事ではなく、経営者や経営企画という会社も多いです。経営企画から与えられたハコは機能と役割は定義されているけど、そこにどんな役割の何人のメンバーを入れるかというところまではちゃんと設計されていなくて、人事と現場で今いる人を当てはめていく。組織図上のハコ単位で人件費を見て、予算をオーバーしない範囲で今いる人を詰め込んでいく。ただ、その中に能力が高い人も低い人も混ざっていて、人数はいるけど役割を果たす能力を満たしていない。またはたった5人の部署なのに課長級が2人いると言ったことが起こり、人件費もハコ単位で見ると超えてしまったりということも起こっていると思います。

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議論沸騰!次回に続く。