日本の人事制度の問題を識者と考えるシリーズ企画。第2弾は公務員の人事制度を取り上げる。かつてエリートたちの憧れの職業だった国家総合職、いわゆるキャリア官僚の人気は近年凋落している。第二次安倍政権での人事制度改革の影響が大きいとされるが、実はその前から布石は打たれていた(構成=小林暢子、写真=稲垣純也)。

海老原嗣生氏(以下、海老原):今回からは公務員の人事制度を取り上げます。お話をうかがうのは人事院公務員客員教授の高嶋直人さん。国家総合職として主に人事院で勤務され、人事院公務員研修所主任教授や財務省財務総合政策研究所研修部長などの要職を歴任されました。今日はよろしくお願いします。

高嶋直人氏(以下、高嶋):よろしくお願いします。

海老原:実は私の父も官僚でした。人事院から総理府に行って代議士になったのです。官僚同士は信頼が厚いので、僕も高嶋さんに信用してもらっている。今日は色々教えてください。もう定年なさったのでなんでも話せるのでは。

高嶋:いやいや、公務員は退職しても守秘義務があるんですよ。それを知らない国家公務員も多いのですが。

海老原:国家総合職、いわゆるキャリア官僚になりたい人が減っています。人事院の2021年4月16日の発表では、2021年度の国家公務員採用試験の国家総合職申込者は前年度比14.5%減の1万4310人にとどまりました。なぜそんなに人気が低落しているのか。僕は人事制度改革が影響していると考えています。例えば2014年には内閣人事局が発足して、政治主導で省庁幹部人事を決められるようになりました。こうした改革は誰が行っているのでしょうか。ちゃんと役人を見て作っているのか、それとも「上」を見て作っているのか。

名誉とプライドが減ったのに、補うものがない

高嶋:人事院は独立行政委員会として各官庁から独立し、専門性で評価されてきました。人事制度改革の目的は、政治主導を実現するために障害となっている制度を見直すことでした。壊すものは壊して障害物はなくした。ですが現時点では、新しい制度が機能するように再構築するところまでは改革が完成していません。今後完成するのかどうかもまだ分かりません。

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高嶋 直人(たかしま なおひと)氏 人事院公務員研修所客員教授 早稲田大学政治経済学部政治学科卒、人事院採用。人事院公務員研修所主任教授、財務省財務総合政策研究所研修部長などを経て2019年3月退官。同年4月より研修講師に専念。財務省、法務省、国土交通省などのほか、多くの自治体において研修講師、アドバイザーを務める。『公務員のための人材マネジメントの教科書』、『公務員のためのハラスメント防止対策』、『読めば差がつく!若手公務員の作法』(全てぎょうせい)など著書多数。

海老原:それは役人に問題があるのですか。それとも政治の問題?

高嶋:役人にもあるが、政治が主導権を持っているので、政治家に正しい意識を持ってもらわないと正しい改革は難しいでしょう。私も含め公務員が声を発すると、「まな板の鯉はじっとしていろ」と言われてしまう。途中までは人事院も意見を発信していたが、途中からその声も無視され、勢いがそがれました。

海老原:僕の理解で言うと、行政のプロセスとは、内閣や政治家が何かやりたいとき、法律がないとできないのでまず法律の有無をしっかり調べる。ただし法律にはグレーゾーンがあるので、議会承認や閣議決定で補佐する。この一連の流れをパッケージとしてとりまとめるのが役人で、精緻な仕事が求められます。そのパッケージは変わらないのに、好き勝手に制度を変えられたら行政のプロセスも壊れてしまうのではありませんか。

高嶋:一般の行政分野は今もそのシステムで動いています。公務員制度は官僚が当事者であり利害関係者なので、「自分に利益誘導しようという思惑で制度設計しているのではないか」という疑いをかけられかねない。利益相反的立場にならざるを得ないので、公務員が制度設計の主導権を握ることが許されないという特殊性があります。

海老原:公務員人事制度改革で何がどう変わったのですか。政治家がやりたいように役人をこき使って、役人がどんどん政治家に忖度(そんたく)するような仕組みになったのではないですか。

高嶋:大きく言えばそうです。役人主導を脱却して政治主導にしようとすると、政治が上に立つか、公務員を下げるかしかない。両方の動きがあったのですが、公務員を下げることに伴って本来必要とされる手当てが不十分だったので、霞が関が機能不全になり、結果として不人気職場になってしまったのです。

海老原:「公務員を下げるための手当て」とは具体的にどういうことなのでしょう。

高嶋:官僚は自分の仕事が特殊であることを自他ともに認めて、それが働きがいや自負、プライドにつながっていました。ところが改革は、官僚を特殊な存在ではなく、政治家が決めた政策を粛々と執行する技術屋的な存在にしようとしています。私は政治主導であることが間違いではないと思っていますが、特殊な職業を普通の職業にするのであれば、名誉、プライドを下げた部分を何らかの方法で補わないと、全体の魅力が低下するのは当然だと思います。

海老原:昔はカネはないけど名誉はあった。名誉がなくなったのに、他のものもない。マイナスしかないというわけですね。

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