官僚の人事制度について考えるシリーズ第2回。政治主導実現のために人事改革が行われ、キャリア官僚の裁量もやりがいも小さくなった。「カネはないけど、名誉とプライドがあった」という官僚の姿はこれからどう変わっていくのか(構成=小林暢子、写真=稲垣純也)。

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高嶋直人氏(以下、高嶋):職業としてのキャリア官僚の人気が下がっているという冒頭の話に戻りますが、今までの官僚に戻るという選択肢はもうないと思っています。官僚が特殊な職業で、金銭的には恵まれないが、やりがい、使命感があり、現職時代は死ぬほど働くが、専門性を評価してもらって老後の待遇が良い、というかつてのシステムにはもう戻れません。普通のテクノクラートとしての職業の一つに位置付けるしか選択肢はないのではないかと。

 20年かけてシステムが壊れてしまったわけですが、その先を作るしかない。そのためには人気が出ない理由をことごとくひっくり返して、新たな制度を作らなくてはいけません。ありきたりの話ですが、同レベルの人が民間企業に就職したときに得られるであろう所得を補償するとか、ワーク・ライフ・バランス(WLB)―-この言葉は条件付きで使うのですが―-これも実現するといったことです。

高嶋 直人(たかしま なおひと)氏 人事院公務員研修所客員教授  早稲田大学政治経済学部政治学科卒、人事院採用。人事院公務員研修所主任教授、財務省財務総合政策研究所研修部長などを経て2019年3月退官。同年4月より研修講師に専念。財務省、法務省、国土交通省などのほか、多くの自治体において研修講師、アドバイザーを務める。『公務員のための人材マネジメントの教科書』、『公務員のためのハラスメント防止対策』、『読めば差がつく!若手公務員の作法』(全てぎょうせい)など著書多数
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高嶋 直人(たかしま なおひと)氏 人事院公務員研修所客員教授  早稲田大学政治経済学部政治学科卒、人事院採用。人事院公務員研修所主任教授、財務省財務総合政策研究所研修部長などを経て2019年3月退官。同年4月より研修講師に専念。財務省、法務省、国土交通省などのほか、多くの自治体において研修講師、アドバイザーを務める。『公務員のための人材マネジメントの教科書』、『公務員のためのハラスメント防止対策』、『読めば差がつく!若手公務員の作法』(全てぎょうせい)など著書多数

海老原嗣生氏(以下、海老原):それは無理でしょう

高嶋:確かに「時短」に矮小化されたWLBは無理ですが、ワークもライフも充実させるという方向で。逆に言えば、自分の人生を全て捧げる極端な奉仕型官僚はもう作らないということです。

海老原:それで生まれるのは、あまりプライドもないテクノクラート、能力が高いノンキャリの公務員ではないですか。

WLBで失われた談論風発の文化

高嶋:私は採用面接を20年以上、総合職の新人公務員教育を10年以上担当して、変化を目の当たりにしてきました。臨床医に近いですね。彼ら彼女らの「質が下がった」とは思いませんが、変化はしている。変わった人がほとんどいなくなった一方で、ヒューマンスキル、対人関係に優れた人が増えた印象があります。常識的でよい子が増えたと言えるかもしれません。総合的な資質の低下が起きているとは言い切れませんが、このまま放置すると危ないほどの不人気さになっているのは確かです。

海老原:5~10年前とは確かに顔ぶれが違っていますね。入省後の環境も違う。昔は忙しい時とそうでないときがあり、5時から庁内で飲みながら政策談義をする、サロンみたいな場がどの省庁にもあり、先輩や部局の違う人たちから知恵や啓発を受けられる談論風発とした環境がありました。それが今はゼロじゃないですか。

高嶋:その理由の一つがWLBですよ。早く帰れと。だから私はWLBという言葉を条件付きで使ったのです。

海老原:キャリア官僚は目先の仕事でなく長いスパンで広い視野を持たないと仕事ができない。それを育てる環境は再現できないのでしょうか。

高嶋:私がその責任者の一人だったかもしれないので、返す言葉がないのですが。新たな人材育成の場の1つは研修でした。人事院の研修は、課長補佐以上はすべて官民合同で実施し、民間5割、公務員5割にしました。公務員は各省から選抜し、研修の場で民間とのネットワークを張ってもらおうとしました。

 行政のサービスの質の確保のためには、受益者、利害関係者の声を聴かなくてはいけませんが、2000年に施行された国家公務員倫理法の関係などもあって厳しくなりました。それを補うために官民参加の研修という公明正大な場を作って、社会の生の動きを皮膚感覚で分かるように感性を磨いておかないと、行政の質は下がる一方で国民が犠牲になる。そう考えて私なりに頑張ったつもりでしたが、そもそも研修に参加できないくらいの忙しさでした。

 職場で飲みに行く慣行はWLBでやりにくくなり、様々な意味でがんじがらめ。机に向かっている官僚からいい政策は生まれません。私が当事者中の当事者過ぎて返す言葉がない。力不足でした。

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