「雇用システムとは一筋縄でいかないもの。付け焼刃の応急措置では決して変革はできない。本気で日本型を変えるためには、雇用システム、そして人事というものを、隅々まで理解して、根治を目指さなければならない」。長年人事と雇用の問題に携わってきた著者が人事制度をゼロから解説。中央大学大学院戦略研究科のMBAコースで教えている内容をそのまま提供する。

(写真:123RF)

 昨今、またまた「脱日本型雇用」が至る所で叫ばれています。

 新型コロナウイルス感染症の流行によりリモートワークが普及し、従来の働き方が成り立たなくなったことで、「新たな人事制度」を模索して社会全体が焦っているという背景は分かります。それにしてもまあ、いい加減な話が語られている。その根元にあるのが“ジョブ型”なる言葉です。

おかしなジョブ型がそこかしこに・・・

 一知半解に使われる頻出例を見てみましょう。

 「終身雇用はもう持たない。これからはジョブ型にしないといけない」
 「リモートワークではジョブ型で職務内容を明確にし、成果も見えるようにしないと」
 「新卒採用もシビアになってきた。昨今はジョブ型採用で、即戦力が重視される」

 “ジョブ型”というマジックワードを使って旧来の日本型を批判すると、何となく全てが正論に見えてしまうのが怖いところ。専門的に言うと、突っ込みどころ満載な話なのに…。

 まず、終身雇用とジョブ型は二項対立関係にはありません。ジョブ型で通している多くの欧州大陸国は、熟年労働者の勤続年数が日本よりも長かったりするのです。イタリアの平均勤続年数は日本よりも長いし、10年以上勤務している社員の割合もフランスやイタリアが日本を上回っています。

 また、ジョブ型は職務内容がしっかり決めてある、という話も神話に過ぎません(この件は今後の連載で詳しく触れます)。欧米企業の「ジョブディスクリプション(職務記述書)」をぜひ見てください。そこには「周囲の仕事も手伝う」、「書かれていないことは上司の指示に従う」、「業務に付随する諸々の問題を解決する」など曖昧な言葉が頻出していますから。

 もちろん、ジョブ型だと成果が見えやすいというのも間違いです。欧米企業の評価制度は日本よりかなり大ざっぱで、基本は、「いい・普通・悪い」の3段階評価しかありません。それを2軸(「業績と行動」や「業績と能力」など)で行うのが主流です。結果、3×3で9通りの評価になるので、ナインボックスなどと呼ばれています。

 新卒採用の話に至っては、もう何一つ正しくありません。この通りなら、総合商社で原子力発電を扱う部署は原子力発電の営業ができる学生を、メガバンクは法人融資に詳しい学生を採るということになりますが…。そんな学生がいるはずはありませんね。

 こうしたトンチンカンな話は、いわゆる一般人が井戸端で交わしているわけではないのです。マスコミの記者や有名な識者が、どや顔で繰り広げていたりする。のみならず、有名な経済団体で役職に就いている大企業のトップや、大学で学生の相談に乗っている就職課の職員などからも聞かれます。その道のプロであるはずの企業の人事部員すら、こうした話に反論もできない状況になっています。

 要するに、ジョブ型が何たるものか、素人もプロも全く理解していないのです。たぶん日本中の多くの人は、ジョブ型とは「職種別に採用すること」程度に思っているのでしょう。