ジョブ型雇用に必須なのが「ジョブディスクリプション(職務記述書、JD)」。仕事をタスク分解して定義し、まとめてJDにしておけば、仕事の範囲が明確になりブラック労働も発生しない――。こうした「JD神話」はたくさんの矛盾をはらんでいる。

(写真:123RF)

 3回にわたって人事制度の基礎を復習してきました。今回からはいよいよ、ジョブ型について説明していくことにします。

 雇用・人事用語では、コンピテンシーや成果主義など、正体が定まらない言葉が時として大流行します。ジョブ型もその一つと言えるかもしれません。

 ジョブ型を「専門領域を決めた雇用」だと思っている人は多いと思いますが、その人たちにまず聞きたい。ではこれまでメーカーで採用してきたエンジニアは、皆、ジョブ型なんでしょうか? 彼らは基本、専門内で仕事をしていますよ。

そもそもジョブとは何か

 本論に入る前に、そもそもジョブとは何なのかについて考えておきましょう。

Q1.ジョブって何ですか?タスクという言葉を使って説明して下さい。

 仕事というのは漠然としたものですが、それを細かく分けていくと、これ以上は細かくできない小さな単位となります。それをタスク(task)と呼びます(日本語では「課業」となりますが、よほどベテランの人事担当者にしかなじみのない言葉でしょう)。タスクにまで分解してしまうと、曖昧な点はなくなり、何人も誤解なく一意に理解できると言われます。例えばこんな感じです。

 「あなたの仕事は、求人の広報です」。これでは「広報っていったい何?」となるでしょう。

 対して、細かくタスクに分解すると、以下のようになります。

・求人の条件を決める
・それを掲載する媒体(求人サイトなど)を決め、連絡する
・求人誌の取材相手を決める
・求人誌の原稿をチェックする
・掲載した広告への応募書類を整理する
・応募者からの問い合わせに答える

 「求人広報」という仕事も、タスク分解すると非常に明確になります。のみならず、ここに列挙していない仕事を割り振られたとき、「それは私の仕事ではありません」と言えるようになるのです。だからブラック労働も発生しないし、労働時間も短くなる――。と、人事の教科書的にはそんな解説がなされてきました。こうしたありがちな解説をもう少し続けることにしましょう。

社長の仕事もJDにできる?

 このように誰もが理解できるタスクを列挙して、それを1つのパッケージにしたもの、それが「ジョブ」だと俗に言われています。そしてそのパッケージ化をするための注意書きを職務記述書(ジョブディスクリプション=JD)と呼ぶ。ここまでは人事の基礎知識ですね。

 先の例でいえば、「求人広報」はジョブであり、それは細々としたタスクの集合であり、JDで定義されています。

 と、ここまではまさに教科書通りの解説をしてみました。まともに実社会を見ていないアカデミックな世界では、これをそのまま信じて、おとぎ話のような言説が流布されているのです(とりわけ、教育学や社会学などの高名な研究者にこの傾向が強いようです)。

 ただ、この「明確なタスクで示されたジョブ」は二つの意味で誤りです。

 第一に、タスクは難易度の高い職務においては、あまり意味をなさないものなのです。たとえば社長のタスクを列挙して書くことは非常に簡単で、以下のようになるでしょう。

・役員会に出る
・役員会では議事進行をリードする
・議題について総合的に勘案する
・最終ジャッジをする
・株主総会に出る……

 こんな形でタスクを列挙したとしても、どのタスクも誰もが「こうすればよい」と思えるような共通のイメージを持てる定型的な作業ではなく、各人各様に苦闘しながらその答えを出していかねばならないものです。

 またその過程で派生的なタスクが生まれます。例えば「総合的に勘案する」というのは役員会の席でのタスクですが、その準備として、現場視察に行く社長もいるだろうし、経営者交流会でライバルの動向を探る社長もいるでしょう。意見の違う役員たちを飲みに誘って、どちらの話が正しいかを論を戦わせる行為も必要になるでしょう。JDでしらっと「総合的に勘案する」というタスクを書いてもその裏にはとんでもない積み重ねが必要となる。ビジネスに携わった人間ならそれはすぐに見当がつくでしょう。