日本型の「誰もが階段を上る」雇用スタイルは、過重労働という問題をはらむ。日本人の労働時間の長さはOECD41カ国でワースト4位。データではこの30年で160時間以上減っているのだが、実はこの数字も実態を表してはいない。

(写真:123RF)

 前回までは欧米と日本の雇用システムの違いが生み出す功罪を説明してきました。今回からは日本型雇用システムの問題を考えていきます。

 前回指摘したように、日本には
1.高齢者問題
2.女性問題
3. ワークライフバランス(WLB)問題
4.ブラック問題
5.非正規問題

という5つの大きな問題があります。

 

 日本型の「誰もが階段を上る」雇用スタイルは、過重労働という問題をはらんでいます。それはWLBの欠如、ひいてはブラック企業問題にもつながります。まずはこの問題について、考えていくことにいたします。

「欧州並みに年間1700時間に抑える」は無意味

 

 過重労働を客観的に表すのは「労働時間の長さ」です。この問題を解決するために、2015年以降、働き方改革が叫ばれてきました。ただ、ここで安易に労働時間の短い欧州のことを引き合いに出す風潮には大きな問題があります。

 

 以前「欧米には二つの世界がある」と書いたことを思い出してください。

 欧州のジョブ型ワーカーである資格労働者や中間的職務従事者は、確かにとても労働時間が短く、有給も完全消化します。ただし、彼らは一生「同じ仕事をほぼ同じ給与でこなす」タイプの働き方で、彼ら自身がそれを「籠の鳥」と自嘲していましたね。つまり、彼らにとってのWLBとは、横にも縦にも閉ざされた籠の中の「自由」でしかありません。

 

 日本人のように年齢とともに習熟を積み、職務難易度や給与を上げていくタイプの雇用であれば、今の仕事に慣れたらその上の仕事に移る、という職業生活が続くため、労働時間は長くなりがちです。つまり、欧州のジョブワーカーとの比較は的を射ておらず、「年間労働を1700時間以下に抑える」という話には現実味がないのです(これは正社員についての話です。非正規雇用者については、欧州並みの短時間労働で、なおかつ生活維持が可能な年収300万円を確保できる仕組みに変えていかなければなりません。この点については、次回詳細に書くことにいたします)。

欧州でもエリートは長時間労働、ただ日本人はそれより長い

 実際、欧州でも「階段を上り続ける」エリート(フランスで言う「カードル」)の労働時間は、「籠の鳥」労働者よりも相当長くなっています。カードルの労働組合が出しているデータでみると、年間1900時間を優に超えます。これは「籠の鳥」労働者よりも400~500時間程度長い数字です。

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 しかも、1日10時間以上働いている人の割合が3割を超え、恒常的に土日も働いているとも言います。WLB大国のフランスでも彼らカードル層の人たちは、その多くが「家族との時間が足りない」と感じています。女性管理職に限るとその割合は73%にも上ります。そう、階段を上り続ける限り、楽はできないというのが一つの結論でしょう。

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 ただ、日本の問題はそれで片付きません。

 

 なぜなら、日本の労働者は欧州のエリートよりもさらに長時間働いているからです。同じ「階段を上る」労働者であり、欧州では少数精鋭のカードルでさえも年間労働は1900時間強。一方日本は、フルタイマー雇用者の平均が年2000時間。このフルタイマー雇用者には非正規も含まれますし、一般職事務員や役職定年者、定年後のシニア再雇用者など、「階段を上る」働き方とは異なるタイプの人たちも多々います。そうした人たち全員の平均値にもかかわらず、カードルよりも年間労働が100時間も多いのです。

 いわゆる日本人の「社員」像ともいえる、総合職正社員の壮年期に絞ると、年間総労働時間は一体どのくらいになるのでしょうか。

 リクルートワークス研究所が試算したそれは、男性で約2300時間、女性で2200時間となっています。所定時間との差で考えると、年間残業は400~500時間。月間ではおおよそ30~40時間であり、体感値にも近い数字となるでしょう。この年間2200~2300時間という日本の男性総合職正社員の労働時間は、フランスのカードルと比べても300~400時間も長い。これはもう大いに反省すべき問題でしょう。

 なぜこのようなことが起きてしまうのか。その説明をする前に、我が国の労働時間の過去からの推移について、振り返っておきます。