人事評価とOKRを緩やかに連携させる

――K25ではOKRと併せて「社員の挑戦・貢献度に応じたフェアな報酬」を実現していくことに言及しています。OKRをどのように人事評価と結びつけていくのでしょうか。

仲本:人事評価は、社員個人の1年の活動すべてを総合的に評価しますが、ここにOKRを緩やかに連携させていきます。

 これまで花王ではKPIをベースにした目標管理制度を実施していました。全社の目標を基に社員個人が取り組むべきことを網羅的に設定し、それに対して、基本的には100パーセントの達成を求めてきました。一方、OKRはそういったものではありません。目標の中身によっては50パーセントの達成度でも素晴らしい成果につながるかもしれません。

 そこで今後の人事評価では、OKRで書かれている目標についてどのようなチャレンジをしたのかといったプロセスや、OKRに取り組む中で具体的に出来上がった成果がどれだけ事業に貢献したのか、といった形で、全体的に見ていきます。また当然、OKRには書き切れない業務活動もたくさんありますから、それらも含めて総合的に評価する形になります。

企業文化を変えることに等しい

――全社の目標を分解して各人に割り当てるKPIを使った目標管理制度から、OKRによって社員の内側にある目標や夢を引き出し、組織の目標との接点を見出していく方法に切り替える。これは花王グループとして非常に大きな変革ですね。

仲本:おっしゃる通りで、企業文化を変えることに等しいと思っています。

 もともと花王は自由闊達な組織風土でして、組織マネジメントについても古くから大部屋制度を取り入れたりと、先取的な気概のある会社です。ただ、組織が大きくなってきたこと、さらには時代の変化、またコロナ禍でリモートワークをせざるを得ない事情なども相まって、少し課題が出始めたという事情があります。

 ただ、昔の良き花王をただよみがえらせるということで終わらせたくはありません。現在の花王の良い点を引き出しつつ、バージョンアップを重ねていく、そのような形で企業風土を変えていくことが必要だと思っています。

 これは私の個人的な思いでもあるのですが、OKRというツールを通じて、各職場のマネジメントの在り方、あるいは社員の心の持ち方といった点に入り込みながら、さらに良い企業文化を醸成できればと考えています。

――まずは大きく舵(かじ)を切った、しばらくの間は定着に向けて打ち手を順次繰り出していく、ということですね。

仲本:OKRの適用は、まさに走り始めた段階でして、各部門と一緒に話し合いながら進めています。

 現段階では、この3月末を一つの目途と設定し、まずは社員の皆さんにOKR(Objectives)とKey Results(成果指標:目標達成に直接結びつく計測可能な指標)を書いていただくということにしています。そして運用しながら適宜、修正しつつ、進めていく。花王としても初めての取り組みであり、各部門の皆さんとのディスカッションを通じて、OKRの具体的な活用方法を作り上げていこうという考えです。

日本の産業界の試金石

 与えられたことはしっかりこなす優等生、けれども減点主義の影響なのか、挑戦心にはやや欠ける――。筆者が20年ほど前の取材時に、ある経営者から聞いた「最近の中堅社員」に対する評価である。2020年代における「平均的な会社員の姿」を描写した言葉だと言っても、違和感はないだろう。

 産業界が激しい変化にさらされる中、「与えられた目標をこなす人」ばかりで荒波を乗り切れるとは限らない。また「より良く在る」というウェルビーイングの定義から考えると、時代に合わない現状維持は、ウェルビーイングであるとは言いにくい。そもそも、社員本人の自主性を尊重し幸福度を上げることが、ひいては組織の生産性も上げるのは言うまでもない。

 本稿で紹介したように、日本のエクセレント・カンパニーの代表とも言える花王グループが、OKRの導入に踏み切った。国内ではメルカリなどの導入事例があるものの、いわゆる伝統ある日本企業におけるOKRの導入例はまだ珍しい。

 その意味で、花王の導入事例は日本の産業界の試金石ともみなせる。近い将来、花王がOKRをてこに、時代に合わせた企業文化のバージョンアップを実現できれば、それは日本にとっての良きモデルケースになるだろう。