ダイバーシティ&インクルージョンにまつわる話題に改めて注目が集まる中、「公正に機会を提供する」という観点、「Equity(エクイティ:公正性)」について、経営戦略として取り組む動きが出てきた。

 ジョンソン・エンド・ジョンソングループは、2021年に入ってから世界のグループ社員に向けて、新たな概念を提示している。「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(Diversity, Equity & Inclusion:DE&I)」だ。従来のダイバーシティ&インクルージョンを拡張した概念で、欧米企業を中心に、このDE&Iを取り入れようとする組織が増えつつある。

 生まれ持った肉体上の性別や体格・体質、障害の有無、あるいは家庭の経済状態や学歴、生まれた国の文化など、所与の社会環境によって、人それぞれに独自の特性が生じる。これら特性に基づく心理的・物理的なバリアを取り去り、個々人の能力を発揮し成果を出せる、公正な“土台”をつくりあげよう――。これが、エクイティの基本的な考え方である。

 ジョンソン・エンド・ジョンソングループの1社、ヤンセンファーマの加藤ゆう里氏(取締役CFO 経営企画本部本部長事業開発本部本部長)はDE&Iを掲げた趣旨について、次のように説明する。「すべての人が自分の能力を発揮し可能性が開けるようにするべく、個人のニーズや状況に合わせたツール、リソース、サポートを提供していく。この概念をエクイティという言葉を通じて明確化し、全社のコミットメントとした」。なおエクイティには「公正性」という日本語が当てられている。

 このDE&Iを通じて、すべての従業員が、その性別や人種、年齢、障害の有無、これまで所属してきた組織の別などにかかわらず、同じステージで活躍できる企業文化を醸成することを狙う。

 加藤氏が主幹する領域は、同社の事業開発および社内文化醸成だ。また加藤氏はヤンセンファーマが所属するジョンソン・エンド・ジョンソンのグローバルにおける社内活動、WLI (Women's Leadership & Inclusion)の日本地域のリーダーでもある。WLIは女性のリーダーシップ開発を目的として結成された社員の有志によるグループで、2005年より継続的に活動している。

 加藤氏は日本と米国、そして複数の業界で横断的にキャリアを積んできた経験から、同社が掲げているDE&Iに強い思いを持つ。

 「性差や人種による差別をなくすことはいわば狭義のダイバーシティ&インクルージョン。これからの企業にとってのダイバーシティ&インクルージョンは、あらゆる人が等しい条件下で活動に参加できる土台を用意するDE&Iを指すようになるだろう。そしてそのような活躍の土台づくりが、これからの企業や組織のリーダーに求められるビジネススキルになるはずだ」と語る。

 コロナ禍は健康や経済など多面的な社会不安を高めている。それを受けて企業はいかに「社会的に善」な存在であるか、ビジネスをいかに発展させていくかというESGやSDGsの観点から考えても、エクイティの概念は理にかなっている。「多様化・個別化が進む現代の市場変化に柔軟に適応するには、多様な社員が心理的に安全な組織の中で、能力を発揮できる体制を整えることが有効」(加藤氏)だからだ。多様な社員から創出される発想やスキルの蓄積は、顧客のニーズに刺さる商品やサービスの源泉にもなり得る。障がい者や高齢者などの人々を商品・サービス開発に積極的に取り込み、新しい価値創出を見出す「インクルーシブデザイン」の概念にも近しい。

 加藤氏は「一人ひとりが、自分は自分であることを受け入れている状態」とウェルビーイングの意味を解釈する。DE&Iの概念を組み合わせて加藤氏の本意を解釈すれば、ウェルビーイングな職場とは、「個々の働き手が自分の特性を受け入れられつつ、他の働き手と同じように活躍できるよう意図的に工夫された職場」とも表現できるだろう。

 ここ日本では、どちらかと言えば組織としての一体感が重んじられ、個人の特性への細かな配慮は軽んじられる風潮がある。しかし、DE&Iの考え方に立てば、個人の特性への配慮は、企業組織の成長・存続とは矛盾しない。

 加藤氏はどのように日本のジョンソン・エンド・ジョンソングループおよびヤンセンファーマにDE&Iを定着させようとしているのか。活動と今後の方針をもとに、ウェルビーイングに配慮した近未来の日本企業における組織づくりのモデルを見出していく。

 以下、加藤氏に話を聞いた。

加藤 ゆう里氏
ヤンセンファーマ 取締役CFO 経営企画本部本部長 事業開発本部 本部長
慶応義塾大学を卒業後、日本で新日本製鉄、アクセンチュアでのファイナンス部門勤務を経て2003年に渡米。約10年の米国企業勤務を経て帰国後、日本マイクロソフトなどを経て、2018年8月にヤンセンファーマ入社。2019年3月より現職。
(写真提供:ヤンセンファーマ)