近年、欧米の産業界で「ニューロダイバーシティ」という考え方が注目を浴びつつある。ニューロダイバーシティとは、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害に代表される発達障害を持つ人々が持ちうる能力に着目し、その能力を組織で生かす人的資本活用を指す。

 ニューロダイバーシティの考え方について理解を深めるために、ハーバード・ビジネス・レビューの論文『ニューロダイバーシティ:「脳の多様性」が競争力を生む』(著者はロバート D.オースティンとゲイリー P.ピサノ、邦訳はダイヤモンド社『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2017年11月号)から、一部の要素を引用・要約する。

  • ニューロダイバーシティは、「ASDやADHDのような非定型発達は、人間のゲノムの自然で正常な変異である」という発想に基づく。
  • 「ニューロダイバース」な人(非定型的な発達者)の多くは平均を超える能力を備えている。研究からは、自閉症や失読症などの特性は、パターン認識、記憶、数学分野の特殊な能力と表裏一体である可能性が示されている。
  • このようなニューロダイバースな人材を取り込むために人事プロセスを改革する動きが、いわゆる有名企業に広がりつつある。独SAPや米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、マイクロソフトといったデジタル分野の企業が先駆的に取り組み、製造業や金融業などでも初期および試行段階の取り組みが進められている。軍などの国家組織も自閉症をもつ人材が備えるパターン認識能力に注目している。
  • SAPとHPEでは、ニューロダイバースな人材が参加したチームでめざましいイノベーションを実現した事例が報告されている。一例としてSAPでは、技術的なソリューションの開発により、推定4000万ドルのコスト削減効果が得られた。

 厚生労働省の「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」によれば、平成28年(2016年)12月1日時点で、医師から発達障害と診断された者の数は48万1000人。なお発達障害は「見えない障害」と言われており、本人も周囲も気づかぬまま社会になじめず、引きこもりやうつ病の発症などにつながるケースもある。

 ここ日本でも、ニューロダイバーシティに該当する人的資本の活用を進めている企業がある。ソフトウエアのデバッグ(不具合検査)を主事業とするデジタルハーツホールディングスだ。同社は宮澤栄一取締役会長が2001年に創業し、ゲームソフトのデバッグサービスを手がけてきた。米マイクロソフトのゲーム機「Xbox」向けコンテンツのテストなどで高い評価を得て成長し、2008年に東証マザーズに上場、2011年には東証一部に上場した。

 2017年にプロ経営者として著名な玉塚元一氏が代表取締役社長CEOに就任。「第二の創業期」と位置づけ、企業情報システムのテストやサイバーセキュリティなどエンタープライズ事業をもう1つの柱として育てるべく、力を入れている。

 同社はどのようにニューロダイバースな人材を組織に取り込んでいるのか。玉塚氏の談話に耳を傾けてみよう。


従業員の両親と会長が抱き合っている姿を見て

御社では、デバッグなどの業務で、いわゆる「引きこもり」を経験した人も活躍していると聞いています。

玉塚元一氏(以下、玉塚):当社はゲームソフトなどエンターテインメントコンテンツのデバッグサービスで大きく成長して、2008年に上場し、2011年には東証一部に市場変更しました。

 私がここに来た理由は、既存事業を軸に、他の関連事業を立ち上げ会社を大きく育てるためです。ただ、もう1つ、ビジョナリーである宮澤が創業者として抱いていた思いをより大きく具現化するという目的も持っています。彼は、ゲームをプレーしてその不具合を検出・報告する、当社の「テスター」という人たちに、卓越した能力が秘められていることを見出していた。私は宮澤から「彼らのすごい才能を最大限に引き出すことはできないだろうか」と相談されたのです。

玉塚元一氏
デジタルハーツホールディングス 代表取締役社長CEO
1985年、慶応義塾大学卒業後、旭硝子 (現:AGC)入社。工場勤務、海外駐在を経て、日本IBMに転職。1998年、ファーストリテイリングに入社、2002年に同社代表取締役社長 兼 COOに就任。2005年9月に事業再生・経営支援を手掛けるリヴァンプを創業し、代表取締役社長に就任。その後、ローソン代表取締役社長、代表取締役会長CEOを経て、2017年6月、ソフトウエアのテスト、検証、サイバーセキュリティ事業を展開するデジタルハーツホールディングスの代表取締役社長CEOに就任。現在、ラクスル、トランス・コスモスの社外取締役も兼任。ケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院 MBA、サンダーバード大学大学院 国際経営学修士号取得。(写真撮影:稲垣純也)