玉塚:私が4年前にローソンの社長を退任して次のチャレンジを考えている時に、宮澤から声をかけられました。どうしようかと迷っていたところに、ある日「うちの会社に来てくれないか」と頼まれました。彼の部屋には、あるテスターの従業員のご両親が来社していたのです。

 ご両親の話を聞くと、そのテスターの従業員は以前、いわゆる引きこもりで、ご両親としてもとても思い悩んでいた。でも、デジタルハーツのおかげで変わった。子どもにどこ行くのかと聞いたら、仕事に行ってくると言ったので驚いたと。ご両親と宮澤がこんな感じで(筆者注:ハグをする動作)抱きしめ合っていたんです。

 こういう場をセッティングするなんて彼もずるいよなと思うのですが、「ここでの仕事は社会にとってものすごく意味のあるものかもしれない」と思いました。それで社長を引き受けることを決めたのです。社長CEOに就任後、私は「第二創業期」というコンセプトを打ち立てました。そしてゲームのデバッグ等を手がけるエンターテインメント事業を基盤にしつつ、エンタープライズ事業、つまりゲーム以外のソフトウエアのテスト、さらにはサイバーセキュリティの領域に可能性を見出して、事業を拡大してきました。

テスター約8000人のデータベースを構築

玉塚:いの一番に私が実行したのが、宮澤が言う「すごい」というのはいったいどういうことなのかを確かめるため、現場を見に行くことでした。当社には「ラボ」というテストセンターが13拠点あり、この現場を訪問しました。

 ラボ長というリーダーたちに話を聞くと「あの人はすごい、この人もすごい」と言う。例えば大手ゲームメーカーから受託したベータ版のテスト業務で、クリティカルなバグをいくつも見つけて品質向上に貢献したというような、抜きん出た人が結構いることが分かりました。ただし、必ずしもそれを全社レベルで把握できているわけではなかった。そこで、まず誰がどんな特性や能力を備えているのか、約8000人のテスターの情報をデータベース化しようと決めました。

 今日(注:取材当日)も忙しくて、4000人くらいの人たちが働いています。このテスターの人たちの基本情報はもちろんのこと、過去にどんなプロジェクトを手がけてきたのかといった実績、どんな仕事を好むのかといった情報、また将来はどんなことにチャレンジしたいのかといった意向に関する情報も含めて、見える化に取り組んできました。これにより、どこにどんな人がいるのかがよく把握できるようになってきました。

 このデータベースを踏まえて、私は「DHサイバーセキュリティブートキャンプ」という取り組みを始めました。ソフトウエア製品や情報システムに隠れたセキュリティホールの検出手法などを教えるプログラムで、未経験からセキュリティ人材を育成する、当社独自の内容です。初回は10人程度に声をかけて、トレーニングに参加してもらいました。

 ひとくちにサイバーセキュリティと言ってもいろいろな業務があります。サイバーセキュリティの核をなす脆弱性診断やペネトレーションテストなどの業務は、本質的にはゲームのデバッグに近い。ブートキャンプの講師には、教育者としての経験も豊富なホワイトハッカーの方を招聘したのですが、その人がブートキャンプに参加したスーパーなテスターを見て「すごくセンスがいい」と評価しています。現在ブートキャンプの卒業生は130人を超えていて、実務で活躍し始めています。

 当社が長く手がけてきたゲームソフトのデバッグでは、複雑で自由度の高いデジタル空間の中で、多種多様なユーザーのケースを想定しつつ、画面とその挙動を見ながら不具合を丹念に探し続けます。創意工夫と集中力が求められる仕事です。このような業務に喜びを見出し、才能を発揮する人たちが、当社には数多くいます。そして、このようなゲームデバッグのスキルは、エンタープライズ領域やサイバーセキュリティの領域にも通じるものがあります。

 産業界全体で見ても、サイバーセキュリティ分野はとにかく人材が不足しています。社会でデジタル技術の役割が大きく拡大していく中、彼ら彼女らテスターが持つ特性と才能が生きる場が増えていくことは確実です。