今後、どのように人材を育成していきますか。

玉塚:ゲームソフトのデバッグで自信をつけた人たちがゲーム以外の領域にも興味関心を持ち、ナレッジとスキルを身につけたら、間違いなく高付加価値の仕事ができます。これは企業や産業界全体、そして彼らにとってまさにWin-Winです。特にサイバーセキュリティ領域の仕事の報酬レベルは、ゲームのデバッグの報酬レベルの2倍、3倍にもなります。

 ただ、当たり前のことですが、新しい分野で成果を出すには自身のモチベーションと努力が欠かせません。あくまで自身のやる気がベースです。しかし、やる気さえあれば、It is possibleであることは間違いありません。

 当社では今、テスターの皆さんに対してロールモデルを発信することに力を入れています。当社では、引きこもっていた経験がありながら今は大活躍しているという人が次々と出てきています。そうした実例・実体験をまとめ、社内で発信していきます。このようなロールモデル見て「やってみようかな」と思う人を見つけ、教育と活躍の機会を提供し続けていきます。

日本のリーダーが取り組むべき課題

(写真撮影:稲垣純也)

日本の産業界やリーダー層は、ニューロダイバーシティに対してどんな姿勢を取るべきでしょうか。

玉塚:少子高齢化が進む中、私が以前身を置いていたコンビニ業界でも人手不足は大きな課題として指摘されてきました。企業にとって最大の資産はやはりヒューマンキャピタルであり、最大の課題は人の能力をどう引き出し、どう活躍の場を提供できるかということです。

 日本では今後、従来評価されてこなかったタイプの人材が活躍できる場をもっと用意することが必要です。しかし、この国では1回の失敗だけでもう駄目だという評価がついてしまう。例えば学校を中退したり、数年引きこもっていたりという経験には厳しい評価がついて回ることが多い。当社のブートキャンプに参加するような特殊な才能を持った人たちでも、面接してみると本当に謙虚なんです。おそらく、これまでの人生のどこかのタイミングで、(従来型の評価の枠組みにはめられて)自信をなくすような経験をしているのかもしれません。

 しかし、私は本気で、この人たちはこの国にとって大事なヒューマンキャピタルだと思っています。当社では、従来の産業界の枠組みでは見つけられなかった隠れた才能が見つかりやすい。しかも、その才能を宝として発揮しやすい場もある。デジタルハーツホールディングスはこの日本社会において本当に希有な会社だと思うのです。

 今こそ日本の産業界は、ヒューマンキャピタルの一部を構成しているニューロダイバースな方や引きこもっていたような経験を持つ人の才能を引き出し、活躍できる場を真剣に考え、つくり出すことに積極的に取り組むべきでしょう。もしかしたら製造業やサービス業でも、その能力を発揮できる事業領域はあるかもしれない。それを見出すことが、日本のリーダー層に求められているのではないかと思っています。


幸福度の高い組織への風土変容のきっかけに

 日本では発達障害との診断を受ける人は増加している。またASDをもつ人は世界で約7000万人いるとも言われている。ニューロダイバーシティの基盤にある「ASDやADHDのような非定型発達は、人間のゲノムの自然で正常な変異である」とする説には、一定の説得力がありそうだ。

 野村総合研究所(NRI)の試算では、発達障害人材(発達障害のある人のうち18歳から65歳の人)関連の日本産業界における損失額は2.3兆円(医療費や社会サービスなどの直接費、そして非就業損失などの間接費を含む)。NRIは「発達障害人材が未活躍であることのインパクトは大きい」とする。

 デジタルハーツホールディングスの玉塚元一氏は、発達障害人材が活躍する上では「マネジメントの要素が大きい」と述べた。NRIの調査では、職場において発達障害がある人に対して十分なサポートがある場合、サポートがない場合に比べてその生産性は34ポイント高い。

 玉塚氏が「私はこの会社に来た時に、なんとも表現しがたい、温かくて独特の雰囲気がある会社だなと感じた」と語るように、ニューロダイバースな人材の活躍を支えるべく工夫と配慮が行き届いた組織は、社員全員が働きやすい組織でもあると言えそうだ。そのような組織であれば、そこで働く人々の幸福度がおしなべて高まるであろうことは、想像に難くない。