インパクトを財務諸表に組み込めるようにする

 ハーバード・ビジネス・スクールは、インパクト加重会計について、次のように説明する。

「インパクト加重会計」とは、損益計算書や貸借対照表の財務情報に記載される項目で、従業員、顧客、環境、より広い社会に対する企業の正と負のインパクトを反映させることにより、財務の健全性と業績を補足するために追加されるものである

『IMPACT-WEIGHTED FINANCIAL ACCOUNTS:The Missing Piece for Impact Economy』
日本語まとめ(五十嵐剛志氏作成)から引用
参照:一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)グローバルリソースセンター


 現代社会で普遍性のある貨幣価値に換算することにより、多くの人がその企業がもたらしているインパクトを直感的に理解できるようにする。また、比較・集計やビジネスパフォーマンスの評価といった、従来の財務情報と同じ形でインパクトの度合いを分析可能になる。

 現在、企業の財務状態を示す損益計算書と貸借対照表は、財務資本と製造資本(建物、設備など)の2つだけで構成されている。将来、インパクト加重会計が普及していけば、企業はさらに自然資本、知的資本、社会関係資本、人的資本という4つについても貨幣価値に換算し財務諸表に組み込むことになる。

 こうなるとインパクト加重会計を通じて、経営者や投資家は計6つの角度から企業の財務を見ることができるようになる。「財務だけでなく、人と地球に影響を与えているさまざまな活動のインパクトを考慮した、高度な意思決定が可能になる」(五十嵐氏)というわけだ。

 ハーバード・ビジネス・スクールはインパクト加重会計の資料で、「企業が社会や環境に与えるインパクトを測定し貨幣価値換算することは、それ自体が十分条件ではないものの、資本主義を再構築するために必要なことである」としている。

 今後インパクト加重会計への注目度が高まっていけば、各企業の人材戦略の在り方に大きなシフトが起きる可能性がある。例えば従業員の健康増進策やダイバーシティ推進施策などを実効ある形で行った場合、それらに使った費用が「投資によって創出された正のインパクト」として財務諸表に表現される可能性が出てくるためだ。

 しばしば企業経営の要諦として、「企業の最大の資産は従業員である」と言われる。しかし現行の会計基準では、給与を含めた人材関連の投資は費用として計上される。特に給与が「人件費」と扱われるのがその象徴だ。

 このため、「利益を最大化するという原則から考えると、経営者はしばしば人材にかかわる費用を削減したい、あるいは削減しなければならないという考え方に偏りがちにもなる」(五十嵐氏)。ハーバード・ビジネス・スクールはインパクト加重会計の開発に至った問題意識として、「現状の会計制度が、低賃金、貧弱な労働訓練、不確実な労働時間、従業員への過度なストレスの原因ともなっている」と言及している。なお、五十嵐氏は日本企業においてはサービス残業がその象徴的な現象だと指摘する。

 また、従来の会計の仕組みでは、企業がジェンダーギャップや人種差別を解消するインセンティブは存在しない。女性管理職や女性役員の比率を非財務情報として開示することはできるが、現状の財務諸表に早期に反映されやすい施策に比べると、経営上の優先順位としては後回しになるだろう。インパクト加重会計では、これらのインパクトを雇用分野における貨幣価値に換算することで、雇用へのインパクトを考慮した経営の意思決定を促す。