「資産である従業員」を数値で見せる

 すでにインパクト加重会計を活用し始めている企業がある。その一社がエーザイだ。同社は「価値創造レポート2021」において、「従業員インパクト会計」を発表した。これはハーバード・ビジネス・スクールのインパクト加重会計の手法をアレンジして、国内で初めて本格的に実践した例だ。エーザイによれば、従業員インパクトとして2019年には269億円の正の価値を創出した。

エーザイの「従業員インパクト会計」。従業員インパクトを金額として算出し、EBITDA、売上収益、給与と比較している(出所:同社統合報告書「価値創造レポート2021」)
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エーザイの「従業員インパクト会計」。従業員インパクトを金額として算出し、EBITDA、売上収益、給与と比較している(出所:同社統合報告書「価値創造レポート2021」)

 また、ハーバード・ビジネス・スクールでは公開情報を基に、米インテルの雇用インパクトを算出している[注3]。算出結果によれば、インテルは約38億米ドルの正の雇用インパクトを生み出した。

[注3]ハーバード・ビジネス・スクールの雇用インパクトに関するドキュメントの中で、雇用インパクトの算出例を例示するのに十分な情報を開示している米インテルを題材に、雇用インパクトの算出方法を提示している
ハーバード・ビジネス・スクールによる2018年における米インテルの雇用インパクトの算出結果。「賃金の質(Wage Quality)」「キャリアアップ(Career Advancement)」などのインパクトを金額として算出し、収益、EBITDA、給与総額と比較している(出所:米ハーバード・ビジネス・スクール『Accounting for Organizational Employment Impact』)
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ハーバード・ビジネス・スクールによる2018年における米インテルの雇用インパクトの算出結果。「賃金の質(Wage Quality)」「キャリアアップ(Career Advancement)」などのインパクトを金額として算出し、収益、EBITDA、給与総額と比較している(出所:米ハーバード・ビジネス・スクール『Accounting for Organizational Employment Impact』)

 内訳を見ると、「従業員インパクト」に対して「賃金の質」「キャリアアップ」「機会」「健康とウェルビーイング」という4項目(インパクトの要素)があり、さらに「労働者コミュニティインパクト」に対して「ダイバーシティ」と「ロケーション」という2項目がある。

 例えばダイバーシティの項目については、約23億ドルの負のインパクトが示されている。なぜならインパクト加重会計では、従業員の性別や人種・民族の統計は、地域の人口統計と同等であるべきだという考え方だからだ。つまり、対象となる企業の所在地域の男女比が5対5なのに従業員の男女比が7対3だった場合、その差異がペナルティとして働くことになる。

 地域における男女比が5:5であり、計算対象となる企業における従業員数が1万人で男女比が7:3であった場合、女性(30%)が少数派グループとなる。企業の平均給与が400万円だったとすると、ダイバーシティーインパクトは、1万人×(50%-30%)×400万円=80億円のペナルティとなる。

 今後インパクト加重会計を採用する企業が増え、こうした雇用インパクトの算出結果を開示することが広まれば、投資家は各企業のダイバーシティ推進を評価できるようになる。「会計の力を使うことで、利益を最大化する資本主義社会の枠組みで、産業界におけるダイバーシティの実現に寄与できる可能性が出てくる」(五十嵐氏)というわけだ。なお、ハーバード・ビジネス・スクールとしてはインパクト加重会計を普及させ、将来的には会計基準の中に取り込まれることを目指して活動を進めているという。