「インパクトと人的資本経営」に関して報じていくシリーズの後編。近年「インパクト投資」の盛り上がりを受け、企業の活動によって生じる社会的あるいは環境的なアウトカム(企業活動の先にある成果)に注視する動きが活発化しつつある。この動きは人的資本経営とも密接に絡んでいる。今回はインパクト投資ファンドの「はたらくFUND」の活動に焦点を当てながら、企業の人事部門が目配せしておきたい、人的資本の質向上に向けたアイデアを考える。

 近年、急速に「インパクト投資」が拡大してきた。インパクト投資とは投資活動を通じて財務的なリターンと共に、インパクトつまり社会的価値の創出を狙う活動を指す。

 世界そして日本におけるインパクト投資の市場は急成長している。インパクト投資を推進するグローバルネットワークで、世界30カ超の国や地域が参加するGSG(The Global Steering Group for Impact Investment)の国内諮問委員会の調査によれば、日本におけるインパクト投資残高の推計は2017年には約718億円だったが、2021年には約1兆3204億円にまで高まっている[注1]

[注1]GSG国内諮問委員会は、厳密な意味での市場推計ではなくアンケート調査の積み上げで得た数値とする。

 日本政府も注目している。岸田文雄首相は、2022年6月14日の持続可能な開発目標(SDGs)推進本部の会合にて、インパクト投資の重要性について言及した。経済政策の基本コンセプトとして掲げている「新しい資本主義」実現のカギの1つとして、インパクト投資を位置づけた格好だ。

 企業が雇用によって地域や社会にもたらす影響度は、決して小さくない。人事部門としてもインパクト投資および社会的インパクトに関する議論は押さえておくべきだろう。

多様な働き方・生き方を実現する企業に投資

 労働人口が減少している日本において、働き方をどう改革するか、働き手の働きがいをどう高めていくかといったテーマは、かねて日本の産業界の大きな課題として議論されてきた。そうした中、「日本に多様な働き方・生き方を創造する」というインパクトを生み出すことを掲げた、非常に特徴的な投資組合がある。新生銀行グループの新生インパクト投資と一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)が共同運営し、アドバイザーとしてみずほ銀行が加わる「はたらくFUND」だ。2019年に設立された。

 はたらくFUNDはベンチャー企業の事業価値を判断する際に、財務的なリターンと同時に、先に述べた「日本に多様な働き方・生き方を創造する」というインパクトの創出を狙う。次の表は、はたらくFUNDの投資先企業計8社(2022年7月時点)を挙げたもの。その多くが人的資本の向上に寄与する事業に取り組んでおり、社外の人材による1on1サービスを提供するエール、中高生向けプログラミング教育のノウハウを企業向けのDX人材育成にも適用しようとしているライフイズテックなど、働き方や人材開発に関する事業を展開するベンチャーが並ぶ。

はたらくFUNDの公開資料をベースに筆者が作成(企業名は五十音順)
企業名 事業内容
エール 同社が用意した外部人材による、企業向け1on1(1対1の面談)サービスの提供。これを通じた働き手個人の自己実現および企業価値の向上支援
CaiTech(カイテク) 介護有資格者と介護施設を結びつけた介護のワークシェアリングを支援するサービスの提供
CureApp 患者の行動変容を通じて治療効果を創出する「治療アプリ」の開発
Compass 低所得状態にある求職者をターゲットに据えたオンライン就労支援サービスの提供
助太刀 建設業界における建設技能労働者の人材不足を解消するためのプラットフォーム事業の提供。事業者を相互につなぐアプリを通じて、採用や職人探しを支援
ライフイズテック 留学で来日した外国人材の日本における就労、就学、生活支援
Linc 同社が用意した外部人材による、企業向け1on1(1対1の面談)サービスの提供。これを通じた働き手個人の自己実現および企業価値の向上支援
ユニファ AIとIoTを活用した保育施設向けソリューションサービスの提供。これを通じた保育事業者の支援、および保育サービスの質向上

 同ファンドのインパクトに基づく着眼点は、自社の人的資本の価値向上を目指す人事部門にも参考になる面がありそうだ。はたらくFUND創設メンバーの1人である菅野文美氏(パートナー)に同ファンドの投資活動のポイントを聞きながら、各企業の人的資本の価値向上に向けたヒントを探っていく。