正式な制度化をにらんで準備中

 企業側の意図も探ってみよう。人材開発を統括しているEY Japanリージョナル・タレント・リーダーの大内田敬氏に、移住プログラムの狙いについて話を聞いた。

移住プログラムを実施した背景や狙いについて教えてください。

大内田敬氏(以下、大内田):コロナ禍が一つのきっかけにはなっていますが、従来からEY Japanは「EYフレックス&リモート」という在宅勤務およびリモートワークのプログラムの実施を通じて、従業員のより良い働き方をサポートすることに取り組んできました。移住プログラムはその一環という位置づけです。まずは約1年間の期限を設けたパイロットプロジェクトとして実施しています。課題を洗い出しながら、正式な制度化をにらんだ準備を進めている最中です。

大内田敬(おおうちだ・たかし)氏
大内田敬(おおうちだ・たかし)氏
EY Japanリージョナル・タレント・リーダー、EY新日本有限責任監査法人 副理事長(写真提供:EY Japan)

移住プログラムのベースとなるEYフレックス&リモートについて、その概要や狙いを伺えますか。

大内田:オフィス改革と一体的である側面もありますので、それも含めてご説明します。EY Japanは2018年に東京・有楽町にオフィスを移転したのですが、このオフィスではフリーアドレス制を導入しました。約9500人の従業員ほぼ全員、決まった席はありません。また同時にペーパーレス化を実施しました。在宅勤務制度と並行してこのような環境を整えることで、柔軟に仕事ができる仕組みづくりを推進してきました。

 ただ、リモートワークの本格的な浸透は、2020年春からのコロナ禍がきっかけでした。最初の緊急事態宣言以降、基本的にオフィス出社率は15%以下で推移しています。緊急事態宣言が発令されている場合は10%以下に下がることもあります。

EY Japanの主要サービスである会計監査、あるいは経営コンサルティング業務の場合、顧客側の事情によって従業員が在宅勤務できるか否かが変わりそうです。この点、いかがでしょうか。

大内田:コロナ禍によって産業界全体が在宅勤務にシフトしていることもあって、状況は一変しました。会計監査や税務といった業務においても、在宅勤務が普通になってきていると言ってよいと思います。

 会計監査は従来、クライアントのオフィスを訪問しまして、紙の書類を見ながら会議室で作業を進めるというのが一般的なスタイルでした。ところがコロナ禍で、クライアントでは在宅勤務を可能にするべくペーパーレス化が進んでおり、業務のやり方が大きくシフトしています。そのため当社も、監査に必要な書類をPDF化していただいたり、あるいはデータを用意いただくなど、それらをベースに監査業務を進めることができるようになってきました。もちろん監査では、データなどが改ざんされていないか確認するツールなどを活用してチェックしています。

 経営コンサルティング業務についてもクライアントのオフィスに常駐する、あるいは訪問することが多かったのですが、今は先方も含めて、在宅勤務に大きくシフトしています。最初は現場のコンサルタントから「ブレーンストーミングなどは対面の方が効率が良い」という意見もありましたが、チャットツールのホワイトボードツールなどの活用が進んできたためか、最近は「オンラインでのコラボ―レーションが大きく進化した」という現場の激変を象徴する声が聞かれています。

 在宅勤務ではセキュリティ対策が必須です。EY Japanでは業務用のノートパソコンや専用のセキュリティソフトといったツールを従業員に提供しています。その上で、監査などより強固なセキュリティが要求される業務には専用のフレームワーク(ソフトウエアやハード面のインフラも含めた仕組み)も用意しています。また、従業員は基本的に自宅の決められた場所で仕事をするようにし、作業画面などは家族に見られないように注意する、といったルールで進めてもらっています。

在宅勤務に対する従業員の評価はいかがですか。

大内田:EY Japanでは定期的に従業員アンケートを取得しています。EYフレックス&リモートを開始してからは、エンゲージメント指数が10ポイント以上向上しました。おしなべて満足度が高まっていることが伺えます。主な理由として、通勤の負担が減ったことや、それに応じて時間が柔軟に活用できるようになったことなどが挙げられます。