満足度は非常に高い

制度やインフラの整備、そしてコロナ禍をきっかけとして顧客と共に浸透した在宅勤務の運用実績が、今回の移住プログラムの展開につながったと言えそうですね。

大内田:はい。ただ移住プログラムは先に触れましたように、1年間の期限を設けたパイロットプロジェクトとして運用しています。従業員が遠隔地に移住した場合にどんな課題が生じるのか、その課題にどう対応していけばよいかといった点を洗い出す必要があるためです。

 まず全社の従業員を対象にした公募制とし、上長からの承認を経た約90人の応募を受け付けました。そこからプロジェクトの趣旨に添って約30人を選抜しました。今後の本格的な運用を踏まえて、職種の比率や、さらには移住先から当社拠点までの距離など、様々な状況を検証したかったためです。その上で、選抜した約30人の従業員には定期的なフィードバックを依頼し、引っ越し費用や家賃の一部を会社側で負担することにしました。

どんな方がパイロットプロジェクト参加者として採用に至ったのでしょうか。

大内田:職種としてはアシュアランス(会計監査など組織の品質に関する保証業務)、税務、経営コンサルティング、バックオフィスなど様々ですね。なるべくEY Japan全体の職種比率に近くなるように割り当てました。

 応募の理由は様々で、自然豊かな土地に住んで生活環境をリフレッシュしたいという人もいれば、親の介護やそれに準じた理由、例えば高齢の両親と一緒に住みたいといったことを挙げた人もいます。またお子さんの教育のためという人もいます。移住先は北は北海道、南は沖縄まで様々です。長野県など自然豊かな地域は人気がありますね。また、茨城県など通勤圏といえる近隣に移住した従業員もいます。都心部ではなくゆったりとした土地で仕事に集中しながら生活を充実させたいというニーズがうかがえます。

移住した従業員の皆さんの様子はいかがですか。

大内田:まず仕事のパフォーマンスに関しては、通常の在宅勤務の社員と遜色ありません。在宅勤務でパフォーマンスが下がったという声もあるのですが、その割合は、移住プログラム参加者のほうが小さいです。総じて参加者の回答を見ますと満足度は非常に高く、ネガティブな回答はありませんでした。非常にポジティブなフィードバックが多いですね。このプログラムは非常に良好な状態で推移していると認識しています。

孤独感解消への対策も並行して着手

リモートワークおよび移住プログラムではカバーしにくい点はあるのでしょうか。

大内田:業務について言えば、やはり例外があります。例えばクライアントとの契約上、事前に定められた自宅の部屋以外、つまり移住先では仕事ができない、あるいはクライアントのオフィスでなければできないというケースもあります。それらについてはチーム内で融通するなど、個別に対応する必要が出てきます。

 また、リモートワークで一人働き続けることで孤独感が増すという側面はあります。ここは会社としてしっかり注視してフォローしていくべきと考えています。すでにいくつか取り組みを進めていますが、その一つが専門スタッフによる従業員のケアを手厚くすることです。産業医などサポート体制の強化を実施しています。

 以前からEY Japanで推進してきた従業員同士のカウンセリング制度やバディ制度についても、改めて運用を手厚くしていくつもりです。カウンセリング制度は現場のOJTとは別に設けているもので、すべての従業員は上位職層の従業員であるカウンセラーを持ち、1対1でキャリア開発のための対話や目標管理をする制度です。またバディ制度は新たに入社した従業員1人に対して従業員がバディとして就き、入社後しばらくの期間事務的なサポートなどを行うというものです。これらについて、より良く運用されるようベストプラクティスを抽出し、社内であらためてアナウンスするという取り組みを進めています。

 このカウンセリング制度ではファミリーという10人から15人程度のグループを作り、その中でさらに組み合わせをつくって運用しているのですが、これも在宅勤務が進んでいることを踏まえて運用方法を少しアップデートしようと思っています。例えばですが、人数が多めのグループについては少なめ、おおむね10人以下になるよう再編してもらい、これにより一人ひとりの従業員に目が行き届きやすくする、といったことを検討しています。

 また昨年から社内に推奨しているのは、従業員同士のカジュアルな声かけです。バーチャルコーヒータイムなどを実施している従業員もいるのですが、こうしたオンライン上で仕事以外のコミュニケーションを深められるような活動も推奨していきます。

 これと並行して、対面のコミュニケーションについても必要な施策を打っていきます。例えば、緊急事態宣言が解除されたタイミングなどに応じて、従業員同士がオフィスでコミュニケーションの機会を持ってもらえるよう、施策やオフィスの在り方の変更も含めて準備を進めていく予定です[注]。週に1回、移住プログラム参加者の場合は月1回などの頻度で、オフィスに出社してもらい、ブレストなど対面のほうが効率的な業務をしつつ、カジュアルなミーティングを開催して親交を深めてもらうといったものです。

 リアルなコミュニケーションの価値は見逃せません。やはり、対面してこそ分かる相手の様子や雰囲気というものはありますので。リモートと対面、柔軟に使い分けていくことが重要だと考えています。

[注]取材時点の8月後半では各地で緊急事態宣言が発令されているため行っていないが、EY Japanでは移住プログラムの参加者に対して従業員に対して東京や大阪などの拠点からの距離に応じて定期的な出社を義務づけている。