移住先で良き刺激も

移住プログラムに参加し、下関市に移住した元松さんのお取り組みは興味深いですね。

大内田:移住プログラムのパイロット版では移住した従業員の皆さんを「アンバサダー(使節や広報担当者の意)」と位置づけていまして、移住先において発見したことや興味深いと感じた活動内容を社内にリポートしてもらうよう依頼しています。

 元松さんは特に活発に活動しているケースですね。基本的に移住プログラムは従業員がワークライフバランスを取りやすくすることや、長く働き続けてもらうことを意図して設計したものですが、派生的な展開として、アンバサダーがまさにEY Japanを代表して地域とのつながりをつくっていくというのは、理想型の一つと言えると思います。

 他の例としては、寒冷地に移住した従業員が、地域の雪かきなどの活動に参加することで地域特有の事情を知り、「EY Japanとして何かできないか」と社内に提起をしてくれています。従業員の皆さんがこれまでとは異なる地域に身を置くことで得られた新たな視点や考え方は、社としても大切にしていきたいです。当初の予想以上にアンバサダーの人たちが地域で活発に活動している印象があります。

 移住プログラムは正式に制度化することを前提に、本格的な準備を進めています。まだ構想段階ではありますが、移住プログラムを地方在住の方々の採用にもつなげられればと思っています。どんな地域のどのような方々を対象にするのかなど、検討すべき事項は多いのですが、将来を見据えて必要な策を打っていきたいと考えています。

多様な働き方を支える制度で、組織と個人両方にメリットを

日本はすでに世界的にも例を見ない高齢化社会を迎えつつあります。移住プログラムの参加者には、介護を見据えた人もいるとのお話でした。従業員が介護をしながら働き続けられる可能性を移住プログラムという形で提示されているのは、かねて日本政府が「介護離職ゼロ」を掲げたことも踏まえると、産業界として注目すべき取り組みと言えそうです。

大内田:過去には、遠方に住む親の介護の都合で辞めざるを得ないという従業員がいました。多様な働き方ができる仕組みを用意し、これにより従業員が会社を辞めずに長く働き続けられるようにすることは、組織と従業員双方に大きなメリットをもたらします。

 従業員の声や反応を見ていますと、40代・50代だけでなくもっと若い層にも将来の介護のことを見据えている人がいます。介護は育児と異なり、人生のあるフェーズで突然やってくることもままあります。リモートワークの仕組みや移住プログラムは、こうした観点からも備えとして有効かつ重要であろうと考えます。

 EY Japanでは、介護や育児をしている従業員に配慮した「中抜け制度」なども実施し、活用を促進しています(筆者注:勤務中、育児や介護といった家庭の事情に類する用事を済ませるために数時間仕事を離れることができる制度)。EYフレックス&リモートや移住プログラムと併せて、様々なライフステージにある従業員のニーズに的確に応えるべく、重点的に取り組んでいきます。


日本の社会課題に道筋をつける可能性

 EY Japanが試験導入している移住プログラムはどの企業でも適用できるかは未知数ではあるものの、在宅勤務が実施できている企業であれば実現の可能性は高そうだ。

 大内田氏のインタビュー中にも触れたが、日本ではかねて介護離職の問題が強く指摘されている。在宅はもちろん、遠く離れた場所でも変わらず仕事ができるとなれば、働き手の選択肢は大きく増える。介護など家族にまつわる課題はもちろん、地域間格差なども含めた日本の様々な社会課題に対して、良き道筋がつけられるかもしれない。それは個々人のウェルビーイング向上にとどまらない、日本全体のウェルビーイング向上をも意味することだろう。