日本を代表するネット企業、楽天。1997年2月の創業から23年が経過した。「楽天経済圏」を掲げたグローバル企業買収、英語の社内公用語化、通信事業への本格参入など、大胆な経営施策がたびたび報じられてきた。その評価はさまざまだが、ネットビジネス黎明期からの20年間に退場した数々の企業を振り返れば、楽天の戦略はしたたかで理にかなっていたとも言える。

 その楽天が、企業経営の中心に「ウェルビーイング(Well-being:より良く在ること、幸福であること、あるいはそのような状態を示す言葉)」を掲げている。2019年、経営陣にCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)のポストを設けた。CWOに着任したのは楽天創業メンバーの1人であり、同社の祖業であるEC(電子商取引)事業責任者も務めてきた小林正忠氏。小林氏はCWOとして個人、組織、社会の3つの側面から、楽天のウェルビーイングを高める取り組みを進めている。

WHOが言及した人類の理想

 ウェルビーイングは、1946年にWHO(世界保健機関)が設立時に憲章内で言及した、健康を定義する言葉として知られる。“a state of complete physical, mental and social wellbeing and not merely the absence of disease or infirmity”という文面を指して「肉体的、精神的、社会的幸福の面で満たされた状態」と訳されることが多い。

 ただ、ウェルビーイングそのものの解釈は、WHO設立から70年以上が経過した今も多様である。経営では人事戦略の在り方や福利厚生施策の充実、あるいは商品やサービスで提供できる利用者の状態を語る際に使われる。近年はイメージ向上のためのキャッチフレーズとして使われる向きも増えており、“バズワード”である感も否めない。

 だが個人と組織は切り離せないものと考えれば、個人が「より良く在る」ウェルビーイングな状態を追求し続ける姿勢は企業組織や産業界にとってもメリットをもたらすだろう。

 ウィズコロナにあって企業組織で働く個人は「より良い働き方とは何か、なぜ働くのか」といった大きな問いで揺さぶられている。現時点で、ウェルビーイングという言葉に唯一の定義をあてることはできない。しかし、様々な問題が噴出している今だからこそ、「ウェルビーイングとは何か」を考えることに意味があるはずだ。

 本稿では楽天CWO小林氏インタビューから、企業組織とビジネスに関わる人々が追求すべきウェルビーイングについて、考え続けるヒントを探っていく。

小林正忠(こばやし・まさただ)氏
楽天 CWO(チーフウェルビーイングオフィサー) 常務執行役員
1994年慶應義塾大学卒業(SFC1期生)。97年楽天創業から参画し、ショッピングモール事業責任者として営業本部、大阪支社、マーケティング部門、国際事業等の立ち上げを行う。70カ国・地域を超える多国籍な人材を有する組織となり、国内19支社・グローバル30カ国と地域に事業地点が広がる中、国内外におけるマネジメント手法の違いを経験。2012年4月米州本社社長、2014年9月アジア本社社長に就任。2017年末にアジア代表を離れ、現在はCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)を務める。2001年慶應義塾大学に「正忠奨学金」を創設するなど若者の育成にも注力。2011年世界経済フォーラムYoung Global Leadersに選出。慶應義塾大学SFC特別招聘教授。5児(息子2人娘3人)の父。(写真提供:楽天)