ユニリーバ・ジャパン・ホールティングスでHR部門を率いる島田由香氏(取締役人事総務本部長)。同社で先進的な人事施策を実行してきたキーパーソンとして知られている。

 島田氏が主導し実行してきたユニリーバ・ジャパン独自の人事施策をかいつまんで説明しよう。2016年には「WAA(ワー、Work from Anywhere and Anytime)」という施策を開始した。働く場所と時間の制限を取り払い、柔軟に働けるようにすることが目的だ。上司に申請すれば場所に関係なく仕事ができ、1日の中で働く時間と休憩時間を自由に設定できることが特徴だ。WAAにより、従業員は「生産性が上がった」(75%)、「新しい働き方が始まってから生活が良くなった」(67%)、「幸福度が上がった」(33%)といった効果を実感しているという(同社プレスリリースより)。

 2019年には「地域 de WAA」というWAAの拡張バージョンとも言えるワーケーション制度をスタートした。地方自治体(宮崎県新富町他6つの自治体)と提携。提携地域の施設を「コWAAキングスペース」(コワーキングスペース)としてユニリーバ従業員が無料で利用できる。さらに、提携地域の課題解決に関わる活動に取り組むと、宿泊施設の宿泊費が無料または割引となるといった特徴がある。政府が推進する地方創生戦略にも貢献しうる取り組みだ。

 新卒採用では、2017年に「UFLP(ユーエフエルピー、ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・プログラム)365」を開始。大学1年生から4年生、加えて卒業後3年目までの既卒者も対象となる。

 UFLP365では、年間いつでも、どこからでも応募でき、1回選考から外れても1年間を空ければ再度受けられる。2018年、経団連が新卒一括採用の不利益を考慮し、従来提示してきた「採用に関する方針」の廃止を表明したが、それに一歩先んじた格好だ。

 またUFLP365には「猶予期間」があり、最終面接の前、そして入社前にそれぞれ最大2年の期間を空けることも可能だ。応募者はこの期間を大学院への進学や海外留学などに使える。選考過程からエントリーシートを撤廃し、対象者のポテンシャルを見極めるための独自の採用プロセスを構築したこともポイントだ。ユニリーバ・ジャパンでは「応募者の『過去』よりも『未来』に目を向ける選考過程」と表現する。

 2020年7月からは、パラレルキャリアを推進する施策「WAAP(Work from Anywhere & Anytime with Parallel careers)」を始めた。これはユニリーバ・ジャパンで副業やインターンシップをしたい人向けの試みである。希望者はWAAPのWebサイト上のジョブの中から、副業・インターンシップで携わってみたいジョブを選んで応募する。担当部署による選考後、ユニリーバの従業員と連携しながらプロジェクトを進めていく。プロジェクトの期間はおよそ3カ月から1年。稼働時間の長短は成果さえ出せば問われず、自身の裁量で関わることができる。

 WAAPのもう一つの特徴は、個人だけでなく企業や大学も対象にしたことだ。WAAPを通して企業や大学、大学院から複数人を受け入れ、副業またはインターンシップができるようにする枠組みも用意した。コロナ禍で雇用の継続が難しい企業や、インターンシップ先が限られてしまった大学・大学院をサポートすることもできる。

 島田氏によると、WAAP参加者に必要なのは「PC」のみ。文字通りの「パーソナルコンピュータ」に「Passion(パッション)」と「Capability(ケイパビリティ)」を掛け合わせた。「これらさえあれば(場所を問わず)どこからでもできる、と説明している」(島田氏)。

 島田氏は組織心理学修士号(米コロンビア大学大学院)を取得しており、ポジティブ心理学やNLP(神経言語プログラミング)への造詣も深い。加えて、広く産業界に向けて現代人が潜在的に求めているであろう新しい働き方について、自身の考えを発信し続けている。所属企業の枠を越えて活動する島田氏の在り方は、自ら「ウェルビーイング(Well-being:より良く在ること、幸福であること、あるいはそのような状態を示す言葉)」を追求し、それを表現しようとしているようにも見受けられる。

 ウェルビーイングが産業界の各所で取り上げられているが、その背景には産業界の人々が、治療薬もワクチンも完成していないコロナウイルスの蔓延によって改めて、自分らしい人生を問おうとする意識が強まっているからではないか。

 「幼稚園児くらいの頃から、人のモチベーションに興味があった」と語る島田氏。本稿では、島田氏が携わってきたユニリーバの施策の概要と背景、ウェルビーイングに対する考え方を聞きながら、働く人々が向き合うべきウェルビーイングを共に考えていく。

島田由香(しまだ ゆか)氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長(CHRO)
1996年慶応義塾大学卒業後、パソナ入社。2002年米コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。08年ユニリーバ入社後、R&D・マーケティング・営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て13年4月取締役人事本部長就任。14年より現職。「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPトレーナー。「幸福学」の研究で知られる慶應義塾大学大学院の前野隆司教授は島田氏の活動を指して「人事分野のジャンヌ・ダルクのような存在」と評価する。(写真提供:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)