島田:WAAPをスタートする前に、10人程度の方に対して個人的にヒアリングしてみました。すると、コロナ禍で在宅ワークに切り替わったことでデメリットとメリットの両方がある、という声を多く聞きました。

 デメリットの1つは、出会いの数がすごく少なくなったこと。もう1つは、新しい仕事に関わる機会も非常に少なくなったことです。総じて、自身のキャリアや能力が伸びていないのではないかと不安を感じる側面があるようでした。それを聞きながら、私は非常にもったいないなと感じました。

 メリットとして興味深い話を聞きました。移動時間や通勤時間がなくなったことで時間ができた。残業も減っている。だから自分の得意なこと、あるいは興味あることに副業で関われるのなら取り組んでみたい、という声が結構な数あったのです。

 そもそも、人と人の偶然の出会いから色々な新しい物事が生まれて、それがイノベーションにつながるはずです。極端に言えば、このまま日本全体で偶然の出会いが少なくなった先、気がついたら国全体が停滞していたという事態にもなりかねません。

 一方、この経済状況下で、個人が転職などを通じてチャレンジすることにはリスクもつきまといます。ならば、ユニリーバ・ジャパンとして、これらの問題を総合的に解決できるスキームを用意すればよいのでは、と考えました。

自社にも他社にもメリットがある枠組みを

 WAAPで用意した企業向けの枠組みでは、相手先企業の従業員を副業人材と見なし、ユニリーバ・ジャパンのジョブを委託する。企業間での契約となり、相手先企業からの在籍出向の形を取る。島田氏はこの枠組みを設けた理由について次のように語る。

島田:コロナ禍で業績が悪化している業界や企業の方からも、いろいろなお話を聞きました。従業員の方は仕事がない。一方で雇用する企業は60%の休業補償を支払い続けなければならない。そのような状況下にある企業の従業員が、一定期間ユニリーバ・ジャパンのジョブに取り組んでくだされば、双方にメリットが生まれます。当社には仕事があり、かつ採用のスピードを落とさざるを得ない状況ですから、Win-Winになると考えました。

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ユニリーバサイトのWAAP(Work from Anywhere & Anytime with Parallel careers)では「WAAPを通じてあなたもユニリーバでパラレルキャリアン(複数のキャリアを持つ人材の意)になってみませんか?」と働きかけている。(出所:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)

 ユニリーバは世界企業の時価総額ランキングで50位前後の位置にあり、グローバルでも優良と評価される企業の1社である。体力のある企業だからこその施策とも言えるが、この点について島田氏は「だからこそ(日本に対して)できることがある」と返す。

島田:グローバルCEOのアラン・ジョープからは、早い段階で明確なメッセージがありました。コロナ禍で急激に財務が悪化するようなことがあったとしても雇用が失われる心配はない、従業員とお取引先様、コミュニティの命と生活を守るという趣旨の説明があったのです。

 そもそも、私たちは「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というパーパス(目的・存在意義)を掲げてビジネスをしています。この「サステナビリティ」には、人々が自分らしく働き、十分な収入を得て、心豊かに暮らし続けられるということも含まれます。コロナ禍でそれが脅かされているのなら、働き方や雇用の在り方を変えて、新しい“あたりまえ”を創っていけばいい。それが結局は当社がビジネスを続けていけるようにすることにもつながります。私は改めてWAAPを進める意義を認識しています。