日本では年間およそ10万人が、介護離職していると言われている。各企業にとっては第一線で活躍する人材流出そのものだ。また、経済産業省は介護離職に伴う日本経済全体の付加価値損失を年間約6500億円と試算している。

 介護離職防止は、政府による重点対策項目の1つと位置づけられてきた。NPO法人となりのかいご・代表理事の川内潤氏は、2020年春からのコロナ禍を「仕事と介護の両立において大きな障壁となっている」と見る。同法人は、企業や個人に向けて介護に関するセミナーや個別相談会、介護に関する普及啓発活動を展開している。

 育児とは異なり、ほぼ全ての働き手はいずれ何らかの形で親の介護を経験するだろう。「みなさん人の子ですから、この2つ(筆者注:仕事と介護)を天秤にかけたら、どうしたって『親の介護』をとってしまいます。」(川内氏の著書より引用)となれば、企業の人事部門としても見逃せない問題だ。

 コロナ禍という逆風にあっても「仕事と介護の両立は可能だ」と川内氏は強調する。仕事と介護の両立を妨げる構造とは。仕事と介護の両立に向けて、企業の人事部門が果たすべき役割と可能性は。コロナ禍における介護現場の事情と併せて、川内氏に聞いた。


テレワークは仕事と介護の両立に逆効果

川内さんは、コロナ禍に入ってから、要介護の親がいるビジネスパーソンをめぐる状況は、良くない方向に進んでいるというご見解です。その理由を伺えますか。

川内 潤 氏(以下、川内):介護の本来の目的は、介護を受けるご本人、つまりここでは親が、可能な範囲で自立的な生活ができるようにすることです。また、介護する側、つまり子どもから見た場合には、介護の対象である親との関係が維持できて、かつ、子ども側も自らの人生を維持できる。これが、仕事と介護が両立できている状態だと言えます。

 コロナ禍に入ってから普及したテレワークは、仕事と介護を両立させる上ではマイナスに働いていると見ています。となりのかいごでは介護に向き合う個人の方々から年間600件ほどの個別相談を受けているのですが、テレワークをしながら介護をしているケースで、うまくいっている例はまずありません。

川内 潤 氏
川内 潤 氏
NPO法人となりのかいご・代表理事 1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年にNPO法人化、代表理事に就任。厚生労働省「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム事業」委員。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)がある(写真提供:NPO法人となりのかいご)