昨年9月に発表した人材版伊藤レポートを踏まえ、経済産業省産業人材政策室は今年3つのアクションをとる。新たにスタートさせる人材活躍度調査もその一つだ。人材版伊藤レポートの活用法やISO30414との関係性、海外で徐々に始まっているISO30414の認証などについて、同省産業人材政策室長の能村幸輝氏に話を聞いた。

――今年、経済産業省産業人材政策室はどのような取り組みを進めていきますか。

能村幸輝氏(以下、能村):2020年9月に発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」を踏まえ、今年はより具体的な3つのアクションを展開していきます。

 1つ目は、しっかりとした情報発信です。人材版伊藤レポートの大きなテーマである「経営戦略にひも付いた人材戦略の取り組み」を確実に推進していけるよう、海外の機関投資家や主要企業に関する情報も併せて経産省として発信していきます。

 2つ目は、人材活躍度調査です。省内で議論している段階ですが、人材版伊藤レポートを踏まえ、日本企業の人材戦略が経営戦略にひも付く形でしっかりと進んでいるか、日本企業の取り組み状況を可視化したい狙いがあります。経年で調査を実施することで日本企業の取り組みを労働市場にアピールすると同時に、機関投資家の関心を高めていきたい考えです。調査対象として、まずは上場企業を考えています。調査を継続することで、人的資本の項目とパフォーマンスの関係性が見えてくるでしょう。これが学術的な分野でも活用されるようにしていきたいと考えています。年度内にベータ版を実施し、本格的な調査は今夏を予定しています。

 3つ目は、コーポレートガバナンスに関する取り組みの支援です。取締役会における議論もそうですが、経営戦略の実現に必要な要素を適切にモニタリングし、外部のステークホルダーへの情報発信が進むようにサポートしていきます。これは、金融庁の検討会でもすでに議論されています。

能村幸輝(のうむら こうき)氏
経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長
2001年 経済産業省入省。人材政策・税制担当、エネルギー政策・資源外交担当、原子力被災者支援担当、大臣官房総務課政策企画委員などを経て、2018年より現職。経産省の人材政策の責任者。テレワーク、副業・複業、フリーランスなど「多様な働き方」の環境整備、リカレント教育、HRテクノロジーの普及促進、外国人材政策などを担当。

――ISO30414やGRIスタンダードなど様々な国際指標がある中で、人材版伊藤レポートはどのような位置づけになりますか。

能村:人的資本が企業価値の主たる源泉になりつつある中で、人的資本の情報開示を進めていくのがグローバルな潮流です。人材版伊藤レポートは、日本企業がこの流れに合わせていくための指針となります。

 その中心的なコンセプトは、経営戦略にひも付いた人材戦略に従い、人的資本経営を推進することにあります。まず組織全体の企業理念・存在意義(パーパス)や経営戦略の目標を明確化し、経営戦略上重要な人材アジェンダを特定します。策定した人材アジェンダごとに定量的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、現在の姿(As is)とその目指すべき姿(To be)とのギャップを埋めるための人材戦略を策定します。策定した人材戦略の実行プロセスを通じて企業文化が定着していくことで持続的な企業価値の向上が実現します。この一連のストーリーがなければ、形だけ整えて人的資本の情報を開示しても投資家の納得を得ることはできないでしょう。

 昨年、米証券取引委員会(SEC)が人的資本の情報開示を義務化しました。その中で、経営や事業を理解するためにどのような情報を開示すべきか、経営陣が自ら判断して発信するよう求めています。これは、人材版伊藤レポートの考えと非常に近いものです。

 まずは人的資本経営を具現化するための指針として、人材版伊藤レポートを活用します。その上で、その情報を社内外へ発信するためのガイドラインとしてISO30414その他の標準が参考になるという理解でよいと思います。

 

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