非財務情報が企業価値を左右する時代になり、人的資本に関する情報開示が大きなテーマとなっている。企業が何をどう開示すべきかに頭を悩ませる中で、投資家の興味と関心は重要な手掛かりになろう。投資家が企業の人的資本情報に期待することは何か。国内外の動向も交え、「投資家フォーラム」の運営委員を務める4人に聞いた。

(写真:123RF)
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 投資家フォーラムは投資の実務経験を持つ有志が2015年に結成し、機関投資家と投資先企業との建設的な対話の実現を目的に運営している。今回は同フォーラムの運営委員である大堀龍介氏、鎌田博光氏、古布薫氏、三瓶裕喜氏に、企業の人的資本経営をどう見ているのかを聞いた。

 「投資家は利益だけを追求し、従業員の給料や費用はできるだけ削りたいと考えている…。投資家についてそう誤解している人が多いようだが、実態は全く違う」。こう語るのは、投資家フォーラム共同設立メンバーで、アストナリング・アドバイザーLLC代表を務める三瓶裕喜氏だ。

 企業への投資を検討する際、重視する要素が2つあるという。1つは、やる気のある良い従業員が集まり、会社の持続性と成長可能性を確実にしていること。もう1つは、経営陣が掲げた中期経営計画などの長期ビジョンを、本当に達成できる体制になっているかどうかだ。

 長期ビジョンを達成するのは経営者ではなく、一人ひとりの従業員である。従業員が会社の方針に心から納得し、経営陣と足並みをそろえて仕事を進められるかどうかが重要だ。経営者がどんなに立派な戦略やビジョンを語っても、そうした組織体制が見えてこない限り投資家は信用しない。

 投資家フォーラム委員で、インベスコ・アセット・マネジメント運用本部日本株式運用部ヘッド・オブ・ESGの古布薫氏は、投資先企業の職場環境を把握することが有用だという。現場で働く従業員と対話し、会社のパーパスや経営方針が浸透しているかどうかを知るためだ。10年以上前、新興国にある大手日本企業の工場を視察した際、当時は来客用の女性トイレがなく、女性従業員向けトイレや宿舎を見たところ「衛生環境が悪く、宿舎も配慮に欠け海外工場の労働環境に懸念を抱いた」(古布氏)。経営者の説明と現場の状況が大きく乖離(かいり)し、長期的な観点から持続性に問題がある場合、投資家は保有株を売ることもあり得る。

 三瓶氏は新興国の工場を視察する際、従業員の数と機械のバランスを見る。人がどのように扱われているのかを知るためだ。

 人が機械に合わせて忙しく働かされている工場と、人が機械を動かしている工場がある。人の安全が考慮されている現場と、事故が起きてもおかしくない現場がある。やりがいのない職場や危険な現場は、投資家にとって大きなリスクとなる。三瓶氏は「投資家と呼ばれる私たちも、資産運用会社で働く一人の従業員。職場環境に関心がないはずはない。従業員が働きがいを感じて長く勤めたいと思えるような組織かどうかは、投資判断のための重要なポイントになる」と説明する。

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