人的資本レポートの国際規格「ISO30414」をめぐって様々な話題が出ているが、人事担当者にはそもそも国際標準化機構(ISO)や第三者認証制度にあまりなじみがないかもしれない。そこで、歴史的な経緯も含め、ISOや国際規格のルール、第三者認証制度などについて分かりやすく解説する。

(写真:123RF)

 海外のホテルに泊まる際、電源コンセントの形が国ごとに違うために苦労した経験はないだろうか。

 企業がグローバルに物資を調達する場合も、国によってサイズや品質が違っては困る。また、一つの国で作った製品が全世界で通用しなければ、グローバルなビジネスが成り立たない。国ごとにばらばらだった工業規格の統一を図るため、1947年に国際標準化機構(ISO)が誕生した。

 通常、ISOがゼロから国際規格を作ることはない。加盟国は自国にある国家規格をISOに持ち寄り、長所と短所を調整する形で議論する。統一規格の原案ができたら、参加国の投票によって国際規格化を決定する。国際規格が決まると、加盟国は自国の国家規格に反映させ、グローバルな統一を図る仕組みだ。日本の場合なら、発行されたISO規格を翻訳して日本産業規格(JIS)化する流れになる。

 この仕組みで多くの規格が統一され、貿易がしやすくなった。同じ規格の製品をより安い国から調達することも可能になり、企業の調達コストが下がった。

 ISOは民間団体に過ぎない。国家規格は各国の主権事項であり、加盟国だからといって必ずしもISO規格を導入する義務はない。しかし、世界貿易機関(WTO)にTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)というものがあり、WTO加盟国が技術的な規制や国家規格を設ける際には国際標準を基礎とすることが義務づけられている。日本はWTO加盟国であり、ISOの常任理事国でもあるから、国際規格の採用を積極的に検討すべき立場にあるといえる。

マネジメントシステムの国際規格化が始まる

 こうしてISOは工業規格の標準化を進めてきたが、1987年に品質システムの国際規格「ISO9001」を発行したあたりから様相が変わってくる。

 ISO9001は工業製品の規格ではなく、企業の組織に関する規格だ。企業が顧客に対して製品やサービスの品質を保証するために、最低限備えるべき組織体制、作業手順書や基準書、責任と権限の明確化、内部監査の仕組みなどを一つのパッケージにまとめ、「マネジメントシステム」として規定している。

 このマネジメントシステムが、なぜ国際規格として発行されたのか。

 発端は、北大西洋条約機構(NATO)だと言われている。この多国籍軍は、異なる国や地域で大量の物資を調達していたが、その品質が安定しないことに苦しんだ。調達先に改善を求めても、作業記録が無いうえに責任者もはっきりしない。まともに対応してもらえないケースが多く、大きなストレスになっていたという。

 そこで、製品やサービスを供給する企業が備えておくべき体制を規定するISO9001のような規格へのニーズが高まった。これを国際規格として普及させれば、世界中どこへ行っても「ISO9001を導入してください」の一言で話が通じる。

 ISO9001は大ヒットし、世界各国に受け入れられた。これはISOにとっても大きな成功体験となり、ISO9001に続いて環境に関するマネジメントシステム規格のISO14001、情報セキュリティに関するISO27001、食品安全に関するISO22000、労働安全衛生に関するISO45001など、同様の規格を次々に発行するようになった。

 ISO30414を含む一連の人的資本の規格はマネジメントシステムとは言えないかもしれないが、工業製品の規格ではない点でその延長線上にあると見てよい。