2022年3月23日、経済産業省主催の「人的資本経営という変革への道筋」と題するオンラインセミナーが開催された。最終回を終えた「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告と、座長の一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏ほかによる講演が行われた。主たる内容をリポートする。

 経済産業省は、2020年9月に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(通称:人材版伊藤レポート)」を公表。ここで示された人材戦略の「3つの視点・5つの共通要素」という枠組みを元に人的資本経営を実践するに当たり、具体的にどのようなアクションを取るか、進める上でのポイントを議論する場として、「人的資本経営の実現に向けた検討会」において、2021年7月から9回にわたる検討を実施してきた。

 第1部では、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏により「人的資本経営の意義について」と題する基調講演が行われた。

一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄 氏
一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄 氏

 冒頭、伊藤氏は「日本企業は無形資産投資競争に敗れた」と述べた。欧米企業は1990年代中盤から無形資産への投資を拡大し、企業価値を高めてきた。半面、日本企業にはそうした動きがほとんど見られず、失われた20年と言われる時代を過ごし、企業価値を大きく損なってきた。いま、その差が大きく開いている。

 「日本企業は人に優しいと言われてきたが、本当か」と伊藤氏は問いかける。日本企業特有のメンバーシップ型雇用に限界に来ている。「すぐにクビにしない」という意味では「優しい」のかもしれない。しかし、従業員のやりがいやウェルビーイングと真剣に向き合ってきたのだろうか。

 「(仕事がなくなっては)社員がかわいそう」という理由で、不採算な事業を延々と維持し続ける企業が多かった。また、昇進を本人の能力や特性で決めるのではなく、勤続年数で決めるような安易かつ戦略的とは言えない人事がまかり通ってきた。その結果、従業員の自律性が育たず、本当の意味で労働市場を生き抜くための能力やキャリアを伸ばすことができなかった。米ギャラップが従業員エンゲージメントの調査においても、日本のスコアは世界で最も低い分類に入る。

 2020年9月に発表した「人材版伊藤レポート」では、「3つの新たな目線を意識した」と伊藤氏は述べる。人材を「コーポレート・ガバナンスの文脈で捉える」「持続的企業価値創造の文脈で捉える」「投資家目線の文脈で捉える」という3つの目線だ。これからは個人と会社がお互いに「選び、選ばれる関係」になる。メンバーシップ型の長期雇用が再検討されるだろう。また、会社のパーパスを中心に、企業と社員がお互いをよく理解する姿勢が重要になっていく。人的資本の情報開示においては、デジタルの活用とデータに基づくKPI(重要業績評価指標)の可視化が企業の将来を左右する重要な要素になると述べた。

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