ISO30414に準拠したHRリポートの代表例として、2021年3月に出たばかりのドイツ銀行のHRリポート「Human Resources Report 2020」をレビューしている。今回は第7章から第10章までを解説し、HRリポートを作る際に日本企業が特に注意すべき点を見ていく。

(写真:123RF)

 前回前々回に引き続き、今回は「Human Resources Report 2020」の第7章から第10章をレビューする。

 第7章のテーマ「報酬」はHRリポートを制作する際に、特に注意を払うべき項目だ。読者の注目を集めやすいうえ、読む人の背景や文化によって受け止め方が変わりやすいからだ。特に日本企業の報酬体系は欧米と大きく異なる場合が多い。しっかり説明しないと誤解を招くが、逆に細かく出し過ぎても要らぬ憶測を呼ぶ恐れがある。

 「Human Resources Report 2020」では、報酬を3つのブロックで語っている。「私たちの報酬戦略とフレームワークの姿」「変動報酬プールを決定するための方法」「英国の男女賃金格差とドイツの賃金透明法(Wage Transparency Act)」だ。

 最初のブロックで、報酬戦略の全体像を解説。2020年はコロナ禍の影響を受け、報酬慣行をさらに洗練させた。これを報酬フレームワーク、パフォーマンスの管理と開発、変動報酬の決定、ポリシーランドスケープ、プロセス品質&レジリエンス、フレームワークの6テーマから語っている。

 2つ目のブロックでは、ドイツの法規制への対応と変動報酬(Variable Compensation=VC)の決定方法を解説。同社のVCには、グループVCコンポーネント、個別VCコンポーネント、表彰の3つがある。例えばグループVCコンポーネントは4つのKPI(本連載の第1回で説明)や税引き後利益などに基づいて決定するが、2020年の達成率は72%だった。労働報酬全体の総額、収益に対する割合、FTE(フルタイム当量)と報酬額の関係などのデータを見せている。

 3つ目のブロックでは、男女の賃金格差に言及。英国では2017年4月6日に施行された法律により、従業員数250人以上の企業は年に1度、賃金の男女別データを報告する義務がある。男女の時給ギャップの中央値が27.2%から26.1%に縮まったなどの説明が見られた。このほか、ドイツの賃金透明法に関する解説もあった。

 日本企業がHRリポートを作る場合、男女間の賃金格差の表現には注意すべきだ。何の説明もなく数字だけ出すと、格差が大きく見えて誤解を招く恐れがある。例えば日本の職制には総合職と一般職があり、男性には総合職、女性には一般職が多いなどの実態を説明する、あるいは職制ごとに数字を分けて示し、同じ職制内では男女間の格差がないことを説明するといったことが必要になるだろう。ドイツ銀行は法規制の説明にスペースを割いていたが、大いに参考になろう。

 第8章「従業員の育成」は、「エキスパート中心の文化から柔軟な学習者の文化へどう進化するか」「コロナ禍において従業員をどうサポートするか」「スキル向上に関する2020年の記録」の3ブロックから成る。最初のブロックは、デジタル学習プログラムやプラットフォームの説明だ。オンライン学習のユニークユーザー数は15%から65%へ増加し、944人の上級リーダーがワークショップに参加したなどの説明があった。

 2つ目のブロックでは、コロナ禍における従業員への支援を紹介する。仮想イベントやマネジャーを支援する様々なセッションのほか、ヨガ、瞑想(めいそう)、マインドフルネスなど健康やメンタル面を支援するセッションもある。3つ目のブロックでは、こうした社内トレーニングへの参加人数などのデータを淡々と公表している。