企業の持続的成長やリスク回避の切り札として、組織のダイバーシティ推進が注目されている。経団連は2030年までに役員の3割を女性にするというが、まだ9000人以上の女性役員が足りていない。女性役員の育成と仲介を行うオンボード(東京・千代田)の創業者2人に、女性役員の実情とダイバーシティの意義を聞いた。

女性役員の育成と仲介は、いま多くの日本企業が求めているサービスだと思います。始められたきっかけを教えてください。

越直美氏(以下、越):私は2012年から2期8年にわたって滋賀県の大津市長を務めました。そこで直面したのが、市役所職員の意識がなかなか変わらないということでした。終身雇用・年功序列の組織の中で同じ仕事を長く続けていると、組織内の考え方が時代の変化に追いつかなくなります。当時の市の人口は減少傾向にあったのですが、予算配分は人口増加の時代とあまり変わりませんでした。私は任期中に54カ所(約3000人分)の保育園を整備し、公約だった待機児童ゼロを実現しましたが、当初は予算配分のあり方を変えることについて、職員の理解を得るのに苦労しました。

 多くの日本企業にも、これに似た土壌があると思います。ビジネス環境が目まぐるしく変化する中で、企業が持続的に成長し続けるためには、組織内の価値観や常識に支配されないよう注意し、多様な考えを取り入れていく必要があります。意思決定の仕組みにダイバーシティを取り入れることは、それに欠かせない要件です。女性の取締役や監査役を増やしていくことが、その一歩になると考えました。

越 直美 氏
越 直美 氏
オンボード 共同創業者 代表取締役 CEO 三浦法律事務所パートナー弁護士 北海道大学大学院修了後、2002年より現在の西村あさひ法律事務所勤務。2009年に米ハーバード大学ロースクールを修了し、デベボイス&プリンプトン法律事務所に勤務。米コロンビア大学客員研究員などを経て、2012年に当時史上最年少の女性市長として大津市長に就任。2期8年を務める。2020年より三浦法律事務所パートナー。日本・NY州・CA州弁護士。ブイキューブ、ソフトバンクの社外取締役。

松澤香氏(以下、松澤):私がダイバーシティの課題に取り組もうと考えた大きなきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災に関する国会に設置された原子力発電所の事故調査委員会に、調査課長として赴任したことにあります。東京電力の経営陣・従業員の皆さんは、一人ひとりの個人としては優秀な方ばかりです。しかし集団・組織になると、なぜ判断を間違えてしまったのでしょうか。津波による原発事故・被害のリスクは従前から指摘されていたのに、「原発は安全」という組織の建て前を忖度(そんたく)し、原発の稼働が最優先として取り扱われてきたのです。東京電力のガバナンスは、制度として優れているといわれてきました。しかし、制度を動かすのは人です。ダイバーシティのない、同質的な集団・組織だったことが、国家の危機を招いてしまったのです。

 2020年、越と共に「Women on Boards」というセミナーを開催したところ、企業幹部や人事やコンプライアンス・ダイバーシティの担当の方を中心に200人以上の申し込みがありました。この事業への高いニーズを実感しました。

松澤 香 氏
松澤 香 氏
オンボード 共同創業者 代表取締役 CEO  三浦法律事務所パートナー弁護士 慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、2002年より森・濱田松本法律事務所に勤務。米ハーバード大学ロースクール留学中、女性のリーダーシップ論を研究。国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会調査課長、厚生労働省GPIFガバナンス改革担当参与、東京大学大学院工学系研究科研究倫理委員会、東京未来ビジョン懇談会メンバーなどを経て独立。2019年に三浦法律事務所を設立。日本・NY州弁護士。渋谷区教育委員会委員、センシンロボティクス・メディカルノートの社外取締役監査等委員、アンドパッド社外監査役。

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