企業と投資家の建設的な対話が求められる

──人的資本の適切な情報開示についても触れられています。最近では情報開示のガイドラインとして国際規格ISO30414も注目されていますが、企業はどのような指針を参考にすべきでしょうか。

浜田:人的資本の分野では、ISO30414や、2020年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」など、様々な基準や指針があります。こうした指針などに加えて、開示情報の利用者である投資家の声も参考としつつ、自社がどのような開示を行うのが適切かを、各社において適切にご判断いただければと思います。

──コーポレートガバナンス・コードには罰則規定がありません。企業がコードを守って統治しているか、どのようにチェックするのでしょうか。

浜田:ご指摘の通り、コーポレートガバナンス・コードは罰則を科す「ハード・ロー」と違い、罰則規定のない「ソフト・ロー」です。細則を定めず規範を示し自主的な取り組みを促す「プリンシプルベース・アプローチ」と、「規範に従う。または従わない場合は理由を説明する」という「コンプライ・オア・エクスプレイン」という2つの手法に基づいています。この手法には「事案に応じて柔軟な解釈ができる」「都度ルールを策定したり変更したりする手間が不要」などのメリットがあります。

 一方で罰則規定がないので、どのように実効性を確保するかが重要になります。この点については、機関投資家が大きな役割を果たすことが期待されています。具体的には、機関投資家が企業との建設的な対話を通じて、上場企業が同コードに従って適切な取り組みをしているかを把握するとともに、企業に対して自らの意見を伝えることが求められています。

 機関投資家の行動規範としてスチュワードシップ・コードを定めたのはこのためで、企業と機関投資家との建設的な対話を通じて、中長期的な企業価値の向上へ向けた取り組みを上場企業に対して促すことが期待されています。

 今回、コーポレートガバナンス・コードの改定に併せて「投資家と企業の対話ガイドライン」も改定しました。これは、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードの付属文書に相当するもので、投資家と企業の建設的な対話を後押しするガイドラインです。2018年に初めて策定し、投資家と企業の対話をより建設的なものにするため今回初めての改定を行いました。

 上場企業がコーポレートガバナンス・コードへの対応を進める上では、投資家と企業との間で重点的に議論することが期待されるとして、対話ガイドラインで掲げられている事項などもご参考になるものと思います。

──「投資家と企業の対話ガイドライン」改定版では、人件費も含めた人材投資が戦略的・計画的に行われているかという点も盛り込まれています。従来、投資家の主な対話の相手は企業のCEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)でしたが、最近ではCHO/CHRO(最高人事責任者)とも話す機会が増えていると聞いています。

浜田:投資家の対話の相手はアジェンダによって異なると思いますが、ESGの「S」の取り組みについては、人事の専門であるCHO/CHROと話すという動きも、今後広がる可能性があるでしょう。