米証券取引委員会(SEC)による義務化に続き、米国では人的資本の情報開示を法制化する動きが進んでいる。欧州では、給与差別をなくすためのペイギャップ・リポーティングの義務化が進む。ISO30414に関する第三者認証の動きもある。慶応義塾大学教授の岩本隆氏に、人的資本経営を取り巻く最新事情を聞いた。

――人的資本経営を取り巻く最近の話題で、注目すべき事象はありますか。

岩本隆氏(以下、岩本) :2021年6月16日、「Workforce Investment Disclosure Act of 2021」という法案が米国連邦議会の下院を通過しました。これは、米国の上場企業に対して人的資本の情報開示を求める法律です。昨年11月に施行された米証券取引委員会(SEC)による義務化を受け、その法制化が進んでいるわけです。下院を通過したことで、今年中に可決する可能性が高まっています。

 一方、欧州ではESG投資に関する情報開示の義務化が進んでいます。人的資本経営に関して注目される動きは、給与の差別をなくすためのペイギャップ・リポーティングです。英国ではすでに義務化されていますが、対象企業の従業員数が年々下がっており、やがてはすべての企業を対象にする方向にあるようです。

 6月には国際統合報告評議会(IIRC)と持続可能会計基準審議会(SASB)が合併し、価値報告財団(VRF)が発足しました。ここでも人的資本に関するプロジェクトが動いています。

 現在はESG投資の観点から人的資本のリスクを下げる内容が多く、タレントマネジメントのような人的資本の価値を上げる「攻め」の内容はあまり議論されていない印象です。ただし、ここで検討されている指標の多くがISO30414に近づいているように思います。

岩本 隆(いわもと たかし)氏
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。

――Workforce Investment Disclosure Act of 2021とISO30414の関係を教えてください。

岩本 :SECは情報開示を義務化しましたが、開示する内容は企業の自主性に任せています。しかしこの法案では、具体的な開示項目をAからHまで定義し、上場企業に義務づける内容になっています。各項目の開示基準はSECが策定することになっていますが、法律の制定後2年以内に策定できなかった場合、開示基準としてISO30414を使うといった内容が書かれています。ISO30414が国際的な基準として浸透しつつあることが分かります。

 ISO30414が規定している外部開示向けのメトリクスは23しかありませんが、この法案の開示項目は30ほど見られます。カバー領域がISO30414より広くなりそうです。