投資家が人事担当者に説明を求める局面も

 

 A氏は、新型コロナの影響による人材マネジメントの難しさも指摘する。例えば業績が厳しくなったホテル業界や航空業界などでは、社員を他企業に出向させる取り組みが始まっている。「エンゲージメントが重要といわれる中、こうした社員のモチベーションをどのように維持、向上させるかも問われるだろう」とA氏。今後は、自社内でなく複数の企業をまたいだ人材マネジメントも必須になる。「人材をどう扱っていくかは、経営の原点だ。今後は、企業のこうした施策も投資家から注目されるようになるだろう」(A氏)。

 冒頭のように、「投資家との会談」に人事担当者が出席を求められるケースも増えている。ある大手金融機関のCHRO(最高人事責任者)も、「これまではCFO(最高財務責任者)が出席していたが、今年は自分も同席した」と振り返る。

 A氏も「従前はIR担当者が対応していたが、今回は『人事も話してほしい』と言われている。その際の質疑応答で当社の人的資本の情報開示やISO30414への対応について質問されないとも限らないので、準備は欠かせない」と語る。人的資本の情報開示に関する取り組みについて、投資家から人事担当者が説明を求められる局面になってきたのだ。

 「人的資本の情報開示に関するタスクは緒に就いたばかり。これから時間をかけて、当社の人事戦略の軸を明確にしていきたい。2021年には人的資本経営のビジョンや施策を統合報告書にも盛り込みたい」とA氏は意欲を見せる。

 見方を変えれば、投資家が企業の人事戦略に注目することは、企業にとっても人事担当者にとってもチャンスといえる。あるネット企業の人事担当者は、「インターネット業界は、他業種に比べて人的資本が事業に与える影響が大きいと考える。当社も人材が豊富だと自負しているので、積極的な情報開示を進め、ESG分野でも魅力的な企業であることを訴求したい」と語る。

 いま企業には、持続的成長と価値向上につながるような人的資本の情報開示が望まれている。