ジョブ型制度の導入にあたっては、特に5つの課題に注意すべきだ――。人事リーダーや経営者などを対象に実施した調査で、ジョブ型の人事制度を巡る具体的なハードルが見えてきた。ニューノーマル(新常態)時代における新たな人材戦略の実践と人的資本の価値向上に向けた現実解を探る。

 日経BP総合研究所イノベーションICTラボは「Human Capital Online」の読者などを対象に、Webサイトを通じて「ジョブ型人事制度に関する実態調査」を実施した。調査期間は2020年10月21日から12月4日まで。前回記事はジョブ型の導入に意欲的な回答について、その理由などを紹介した。

 今回は課題を中心に掘り下げてみる。

 調査に回答した全ての人(フリーランスなどを除く)に「あなたの勤務先においてジョブ型雇用制度を導入する(あるいは運用していく)際に、どのような課題があると思いますか」と複数回答可の形で聞いた。

公正な運用に難、人事固定化の懸念も

 首位は「制度を公正に運用していくことが難しい」だった。49.6%と半数近い人が挙げた。僅差の2位は「職務を定義するのが難しい」で48.8%、3位以下は「職種別給与の導入が難しい」(45.7%)、「管理職のマネジメント能力を高めるのが難しい」(44.9%)「職務に見合う活躍ができなかった従業員の再配置が難しい」(44.1%)だった。

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「ジョブ型の制度を導入する際、どのような課題があると思いますか」と聞いた結果(複数回答可)

 これら5大課題についての自由意見を見ていく。まず「制度を公正に運用していくことが難しい」について、ジョブ型を導入済みの製造業で新規事業の企画/開発に従事する部長クラスの回答者は次のように述べる。「結果的に相対評価に移行したため、主観性が高くなり、好き嫌いという思考で評価している状況が課題である」。

 ほかにも「人事評価が部署内での相対評価制になっているため、部署間で不公平感が生じる場合がある」(製造、生産・製造、部長クラス)など、公正な運用に悩む声が多数あった。

 「職務を定義するのが難しい」という課題については、以下の自由意見が寄せられた。「職務の定義、コミット、評価にかなり時間がかかり、チームの生産性に影響する」(製造、研究・開発、課長クラス)。職務を厳密に決めすぎると、社員が「自分の職務第一になり、チームの助け合いができなくなり、チームとしてのパフォーマンスが上がらない。厳密に運用しようとすると失敗する」(同)と続ける。

 職種別給与の課題については、「それぞれのジョブに対する賃金の妥当性を示す手間がかかる」(サービス業、企画・調査・マーケティング、一般社員・職員)などの指摘があった。職種間の差をどの程度付けるか、合理性をどう判断するのか、といった点も課題となり得る。日本は海外に比べて雇用の流動性に劣り、職種によっては外部の市場価値を参考にしにくい点も課題になりそうだ。

 管理職のマネジメント能力については「評価できる上司が、そもそも希少」(製造、資材・購買、課長クラス)、「ジョブ型に移行すると、従来の職能給と比較して降格が発生する場合も生じるが、その運用に管理職が耐えられないのではないか」(IT・通信、企画・調査・マーケティング、部長クラス)との声が挙がった。同じ部署で長年一緒に働いてきた部下に上司が自ら降格を告げることができるか。日本企業にとって切実な問題とも言える。

 職務に見合う活躍ができなかった従業員の再配置については、「用意した職務と希望する社員の数がミスマッチとなった場合の解決策がイメージできない」(旅行・観光、総務・人事、経営者・役員)との率直な意見があった。この回答者は「ジョブ型雇用は人事の固定化につながる懸念があり、結果としてイノベーティブな風土を生み出せないのではないか」と指摘する。

 「賃金差を伴う他職種への異動はモチベーションを下げ、困難と考えられる」。製造業の総務・人事部門に所属する課長クラスの回答者はこう述べ、次のように続ける。「人材が豊富な大企業では代わりの人材がいても、中小企業は人員に余裕がないため、職種限定の運用は困難だ」。