新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的でテレワークが浸透するにつれて、在宅勤務の比率を取り決め、社内外に発信する企業が増えている。コロナ対策と働き方改革を継続する意思の表れだが、実はそこに「数字の独り歩き」というリスクがある。社員に不便を強いる結果とならないよう、人事部門は注意したい。

(写真:123RF)
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 「会社に来なくてもほとんどの業務が回るようになった」。ソフトバンクの宮内謙社長兼CEO(最高経営責任者)は在宅勤務活用の手応えを語る。ソフトバンクは6月に社員の出社率を5割以下に抑えると表明しているが、実際の在宅勤務率(9月実績)は全社で76%、本社だけだと83%に達する。目標を大きく上回っている状態だ。

 ソフトバンクだけではない。「出社率を5割以下に抑えます」「在宅勤務率5割以上を維持します」。NTTや日立製作所、富士通など、ITや通信業界を中心にこのようなメッセージを発信する企業や経営者が増えている。

 ITや通信大手は何年も前からテレワークの活用に向けて奮闘してきた歴史と実績がある。社員のITリテラシーが高く、自社商材の「ショーケース」にもなるため、テレワークがなじみやすい。言うなればテレワーク優等生だ。

IT環境とルール整備が不可欠

 こうした企業の振る舞いに触発される経営者や人事部門は少なくないだろう。働き方改革を推し進めること自体は良いことだ。ただ、在宅勤務率などの数値目標を掲げたらすぐに達成できるほど、テレワークは簡単ではない。

 在宅勤務の仕組みを本格導入するには、様々なIT機器が欠かせない。パソコン、ウェブ会議ツールのほか、社内システムに社外から安全にアクセスする通信環境、ハンコを押印せずに決裁などの申請や承認ができるワークフローシステム、会社のキャビネットにしまってある業務マニュアルの電子化とクラウド保管、といった仕組みが必要だ。

 並行してペーパーレスなど業務の見直しを進めたい。ハンコの電子化や請求書のPDF化だけでは不十分だ。申請や承認など決裁プロセスそのものを電子化し、さらに請求書などの記載内容を電子データとして取引先とやり取りできる仕組みを整えたい。

 会社のルール整備も必要だ。目に見えないところで働く社員を正当に評価する人事評価、隠れ残業を防ぐ勤怠管理などの制度である。システムやルールが十分でないまま、「テレワーク比率を5割以上に保つ」など数値目標だけを掲げると、現場の社員に不便を強いる結果となってしまう。

 例えば「出社は制限されているけれど、紙のマニュアルを参照する必要があるのでこっそり会社に顔を出そう」といった事態を招く恐れがある。数値目標が独り歩きしてしまうと、経営者や人事部門の知らぬ間に社員が「隠れ出社」を重ねる事態に陥りかねない。