「ジョブ型ならうまくいく」は大きな誤解

 続いて中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授佐藤博樹氏は、「ジョブ型雇用の実態と課題 ジョブ型雇用は万能薬か?」と題し、日本の雇用システムを刷新すると言われるジョブ型雇用について解説した。

 講演の冒頭、佐藤氏は「ジョブ型雇用という言葉の捉え方は様々なので注意すべき。導入すればすぐに長時間労働などの課題解決ができるわけではない」と述べ、ジョブ型をあたかも万能薬のように表現する一部の風潮に警鐘を鳴らした。さらに同氏は、日本におけるジョブ型雇用の議論で欠落している視点として「雇用制度と労働市場の接続見直し」「人事権の見直し」「社員の生活改革が不可欠なこと」を挙げ、導入と同時に雇用システム全体の見直しが必要になると指摘した。

 採用時に職務と職場の両者を限定するジョブ型雇用と、日本で主流となっている職務や職場を限定しないメンバーシップ型雇用を比較した場合、最も大きく異なるのは「人事権」だと同氏は述べる。理念型として整理すると、「ジョブ型雇用では職務と職場を特定した雇用関係のため、本人が同意しない限り異動や配置転換はないが、他方で職務自体が消滅すると契約解除につながる可能性が高くなる。しかしメンバーシップ型雇用では、職務や職場の配置に関する権限つまり“人事権”が企業にあるため、職務や職場が消滅した場合でも、他へ配置転換などで雇用機会の確保が企業に求められることになる」(佐藤氏)。

 ただし欧米の大企業のホワイトカラーの雇用管理に関する実態調査によると、理念型とは異なり、担当する職務の範囲が限定された雇用であっても当該職務のタスクを柔軟に変更できることが一般的で、雇用された職務がなくなった場合でも雇用確保が企業に求められている国が多いなど、ジョブ型雇用も多様であることを指摘した。

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授 佐藤博樹(さとうひろき)氏
東京大学名誉教授。専門は人的資源管理、人材サービス業、ダイバーシティ経営など。1981年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得。

 ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用について同氏は、「どちらがいいというものではない」と語る。「ジョブ型雇用では空きポストへ即戦力を雇用するため、欧米企業では未経験の学生が採用される機会はほとんどない。学生は、在学中の長期インターンや卒業後のトレーニングプログラムで様々な職場を経験し、就業を希望する職場の下位職務に空きポストがある場合に雇用機会を得ることが可能となる。これまで新卒採用を続けてきた日本の企業がいきなり同じようなジョブ型雇用を導入することは難しい。そのためジョブ型雇用に転換する場合でも、メンバーシップ型雇用として新卒採用を継続しながら、30歳前後にメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換を選択できる仕組みを導入するのも1つの方法となろう」(佐藤氏)。

 さらに、日本の企業がジョブ型雇用へ転換するためには、企業の人事権に基づく配置・異動から、企業と社員の調整と合意に基づいた配置・異動への転換が重要であると指摘した。また、ジョブ型雇用を導入することで社員の長時間労働が解消するわけではなく、社員が仕事だけでなく仕事以外の生活を大事にする生活改革に依存すると指摘した。