ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では、アカデミックな視点でピープルアナリティクスに関する学びを共有する講座「ピープルアナリティクスアカデミー」を開講している。オンラインで開催された2回目の講座「コーポレートガバナンス改革、経営者報酬と人事」では、久保克行早稲田大学商学学術院教授が登壇した。久保教授はコーポレートガバナンスと雇用関係論を専門とし、日本企業における取締役会や役員報酬のあり方について、諸外国との比較やデータ分析から導き出した提言を発信している。久保教授の講演を踏まえ、企業人事担当者の活発なディスカッションも行われた。この講座の様子をレポートする(構成=原田 かおり)。

 コーポレートガバナンスとは株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などのステークホルダーの立場を踏まえ、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを指す。まず久保教授は、日本企業のコーポレートガバナンスにおける課題のひとつに経営者報酬制度があると指摘した。

「リスクを取らない経営」の原因は経営者報酬制度

 経営指標のひとつとしてROA(総資産利益率)の平均を比較すると、OECD(経済協力開発機構)加盟国の上場企業に比べ、日本の上場トップ企業はもっとも低いグループに入ることが多くの研究で示されている。なぜなら日本企業がローリスク・ローリターンの経営手法を採っているためだ。リスクを取る経営には、経営者報酬制度の中に業績と連動したインセンティブを設計することが有効だが、日本企業の現状はその逆だという。「日本企業では、たとえ高い業績を上げても経営者報酬はあまり上がらない。一方で失敗をすると、その後、会長や顧問になれなくなるというペナルティーのほうが大きい。これではリスクを取らない経営を推進しているとしか思えない」(久保教授)

久保克行 早稲田大学商学学術院教授

 企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図るためには、報酬と長期の業績との関係が比較できるよう情報開示することが不可欠だ。さらに、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、独立社外取締役の関与など取締役会の機能発揮、女性・外国人・中途採用者の管理職登用、後継者育成計画(サクセッションプラン)の強化などが掲げられている(参照記事:「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」)。この改定でも言及されたように「経営陣メンバーに多様性を確保すること、かつ経営陣一人ひとりの専門化の後れを取り戻すことは日本企業人事が取り組むべき課題」だと久保教授は提言する。