ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では、アカデミックな視点でピープルアナリティクスに関する学びを共有する講座「ピープルアナリティクスアカデミー」を開講している。オンラインで開催された3回目の「マーケットデザイン(マッチング理論)を活用した人材配置」では、小島武仁東京大学経済学部教授が登壇した。マッチング理論は、部署と従業員側それぞれのニーズをかなえる配置や人材育成に活用できるという。この講座の様子をレポートする。(構成=原田 かおり)。

 マーケットデザインとは制度設計の学問だ。米スタンフォード大学教授などを経て東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長も務める小島教授は、この分野における第一人者である。マーケットデザインでは研修医と医療機関のマッチング、保育園の待機児童解消、新型コロナワクチン配布といった社会問題を市場(マーケット)と捉える。市場参加者のインセンティブを調整し、適切な資源配分を行う数理解析によって制度を設計し、社会問題の解決に取り組む。この手法を活用すれば、企業における実効性が高い人材とポストのマッチングができるという。

 従来の日本企業では、企業側が主導して人材を配置する、またはそのポジションの職務を経験させることで育成するといった観点で配置を行ってきた。しかし配属後、従業員に配置の目的とプロセスを明確に説明できないため、従業員のパフォーマンスが上がらないケースも多い。さらに早期退職につながりかねないことは人事にとって大きな課題だった。

 「マッチング理論の主要成果であるG-Sアルゴリズムを活用すれば、こうした人材配置のミスマッチを解消し、全ての従業員が『自分が行けるなかで最高の部署』に配属され、全ての部署が『自部署が採れる最高の従業員』を配属できる」と小島教授は提案する。この結果、従業員は、その配属によって自分のキャリア形成ができているという意識を強く持てるメリットが生まれるという。

小島 武仁(こじま ふひと)氏
小島 武仁(こじま ふひと)氏
東京大学経済学部教授、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長(写真提供:東京大学)

 G-Sアルゴリズムを適用した配置では、まず各従業員が配属を希望する部署の第1希望、第2希望、第3希望…と順にリストアップしたデータを提出し、部署のマネジャーも同様に採用したい従業員をリストアップしたデータを提出する。アルゴリズムでは双方の希望をうまくすり合わせて、マネジャーと従業員双方の希望を公平に最大限尊重したしたマッチングを行う。

 データ提出の際に例えば、従業員が「一番行きたいと思っている部署Aは人気が高いから、部署Bを第1希望として提出しよう」と駆け引きをしても、G-Sアルゴリズムならば、その従業員は得をしないという性質が知られている。そのため「従業員には嘘をつくインセンティブがまったくない」(小島教授)。さらに部署側では、「部署全体で5人まで採用」「若手と中堅はそれぞれ2人まで」といった定員調整のカスタマイズも可能だ。

 米グーグルの人事もG-Sアルゴリズムを活用する。事業のスクラップ&ビルドがダイナミックな同社では社内の人材配置を迅速に行う必要があり、通年で異動できる社内公募制度を運用していた。ところが、従業員は「人気部署の求人はすぐ埋まってしまう」と考えて公募の情報を見ていない、タイミングが合わないために部署の方も希望する人材がうまく採れないというアンマッチングが起こっていた。そこでG-Sアルゴリズムを取り入れた年3回の定期異動をスタートしたところ、異動比率が高まったという。