今までアナログ中心だった人事部門の様々な課題解決に最新のテクノロジーを導入することで「組織・個人のパフォーマンスの最大化」を目指す企業が増えてきた。ただし、テクノロジーを導入したものの、成果に結び付けられているところが多いとはいえないのが現実だ。そこでピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、テクノロジーを活用して日本の企業の生産性を向上させることを目的に掲げて、2018年から「Digital HR Competition(DHRC)」と名付けたコンペティションを開催している。この連載では、ここで上位に入った企業を中心に先進的な取り組みを紹介していく。

 初回である今回は、2019年のDHRCの「ピープルアナリティクス部門(データ活用実践部門)」でファイナリストとなった三菱ケミカルでピープルアナリティクスに携わっている大村大輔氏、鎌田和典氏、野﨑卓朗氏の3人に話を聞いた。聞き手は、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の上席研究員の林幸弘氏が務めた。(構成=日経BP 総合研究所 ライター 吉川 和宏)

 DHRCでファイナリストとなった案件は、三菱ケミカルと三菱ケミカルホールディングスの共同プロジェクト。「従業員のリテンション」「人事部員のデータリテラシーの向上」という2つの目的を掲げて、このプロジェクトに取り組んだ。プロジェクトの最終目的は、最適な人材マッチングのレコメンデーションを出すことだ。三菱ケミカルの日本単体の約1万6000人の2018年度のデータを分析した。分析の対象となったデータは、年1回のキャリア面談と人事データである。さらに今年、緊急事態宣言下でのテレワーク・サーベイをもとに、ウィズ・コロナを見据えたテレワークでの新しい働き方による生産性向上と健康維持に取り組む。この取り組みでも本年度のファイナリストに選出された(2020年10月16日時点)。

データは蓄積していたものの活用は進まず

林氏(以下、敬称略): 2019年のDHRCでは「リテンション分析」がコンペティションの対象でした。これに限らず、御社では人事関連の様々な領域でピープルアナリティクスに取り組んでいます。これまでの経緯を教えていただけますか。

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三菱ケミカルが取り組むピープルアナリティクスの概要(出所:三菱ケミカル)

大村氏(以下、敬称略): 当社は、2017年に三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱化学と三菱樹脂、三菱レイヨンという3つの大きな会社が合併して誕生した企業です。データサイエンスを専門としている私の目から見ると、健康経営の施策の一環としてウエアラブルデバイスでデータを収集するなど、ピープルアナリティクスに活用できそうな膨大なデータがいろいろなところに散らばってはいたのですが、三菱ケミカル単体ではほとんど活用できていないのが現実でした(※三菱ケミカルホールディングスでは2017年末からデータ活用スタート)。もともとの3社で企業文化が大きく異なっていたので、散在していたデータを統合したからといって、簡単に活用できるものではありませんでした。

三菱ケミカル 人事部 労制・企画グループ 大村 大輔 氏(撮影:川田 雅宏)

鎌田氏(以下、敬称略): 私は合併当時、工場で製造課長に就いていたのですが、人事から調査の依頼があっても、その後、職場にはフィードバックがほとんどありませんでした。現場の社員としては、このことに不満を感じていました。だったら私が人事に行って、自分でやろうと考えたのです。モノづくりだけでなく、人づくりや組織づくりにも携わりたいという思いもあったので、約1年前に手を挙げて人事に異動してきました。同じくらいのタイミングで大村が転職してきたことと、2019年4月に人事領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するためのITチームが人事部門内に立ち上がったので、本格的にピープルアナリティクスに取り組めると考えました。

三菱ケミカル 人事部 労制・企画グループ マネジャー 鎌田 和典 氏(撮影:川田 雅宏)

大村: 三菱ケミカルホールディングスの中にあるDXチームと人事部門のITチームでコラボレーションを行っています。これまでにデータを可視化して、分かりやすく見せるという流れをつくってきたというところですね。