ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では、テクノロジーを活用して日本の企業・団体の生産性を向上させることを目的に「Digital HR Competition(DHRC)」というコンペティションを開催している。2021年度の開催に先立ち、機関投資家と企業の人事最高責任者によるクロストークイベントを実施した。フィデリティ投信ヘッドオブエンゲージメント兼ポートフォリオマネージャーの井川智洋氏とサイバーエージェント常務執行役員CHOの曽山哲人氏が登壇。人的資本に関する開示・発信の要請が高まる中、投資家はどういった点を評価するのか。一方で、人事はどのように発信していけばよいのか。この模様をリポートする。(構成=原田 かおり)。

損益計算書から人材投資のストーリーを読み解く

 最初にフィデリティ投信の井川氏がプレゼンテーションを行った。井川氏はアナリストやファンドマネジャーとしてサステナビリティ経営をテーマに企業と対話してきた。近年、まず着目するのが、パーパスやミッションとして掲げられる会社の存在意義だと井川氏は話す。

「企業の存在意義を達成するために、どのようなビジネスモデルを持っているのか。様々なステークホルダー(利害関係者)との関わり合いの中で持続的に成長していくために、ビジネスモデルにどのような戦略が盛り込まれているかを分析する。ここに必要な資本の一つとして注目されているのが人的資本だ」(井川氏)

井川 智洋 氏
井川 智洋 氏
フィデリティ投信 ヘッドオブエンゲージメント 兼 ポートフォリオマネージャー

 投資家は企業価値創造のために、どのような戦略的投資を行っているのかに着目する。それが分かりやすく示されているのが損益計算書だ。損益計算書には下図のオレンジ色で示した項目がある。例えば、製造業なら設備投資の減価償却費が、医薬品など研究開発型産業であれば研究開発費が、ソフトウエア企業やM&A(合併・買収)を行った企業なら償却費が、化粧品メーカーなら販売費(マーケティング費用)といった項目が戦略的投資に当てはまると考える。

「サービス業のように売上原価が人件費に当てはまる企業は分かりやすい。ただし、人材投資が直接の戦略的投資になっていない場合は、それを明らかにするもう一段階の説明、つまりストーリーが必要だ。それがないまま『人材は財産』と言っても投資家にはなかなか伝わらない」と井川氏は指摘する。

(井川氏の講演資料より)
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(井川氏の講演資料より)

 井川氏は、この考え方を踏まえた開示の好事例として中外製薬の統合報告書を紹介した。ミッション(企業の存在意義)から「イノベーションが必要だ」というストーリーが始まり、イノベーションのためには人材が必要である、そのための戦略を掲げ、人材投資のアウトプットを測るKPI(重要業績評価指標)をモニターしていくというプロセスを説明した。

「従業員研修をしていることを示す企業は多いが、それがどのような結果=アウトプットにつながっているかまで踏み込んで開示してほしい」(井川氏)。さらに「人的資本に関する積極的な開示をしている日本企業は非常に少ない。積極的な開示ができれば、投資家からの評価が得られるチャンスだ」とも指摘した。