ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では、アカデミックな視点でピープルアナリティクスに関する学びを共有する講座「ピープルアナリティクスアカデミー」を開講している。オンラインで開催された4回目の「ワーク・エンゲイジメントを通じたウェルビーイングの実現」[注]では、島津明人慶応義塾大学総合政策学部教授が登壇した。この講座の様子をレポートする。(構成=原田 かおり)

 [注]学術研究では「ワークエンゲージメント」を「ワーク・エンゲイジメント」と表記している

 従来、「健康的な職場」を産業保健の観点で評価するには従業員の心身の健康だけを見ていたが、「近年では心身の健康に加えて、どのように従業員一人ひとりのパフォーマンスを上げていくかを組み合わせて考えていくことが重要だ」と島津教授は指摘する。少子高齢化による生産年齢人口減少を踏まえて労働生産性をいかに上げていくか、すなわちワークエンゲージメント向上に人事が取り組む重要性が高まっている。

島津 明人 氏
島津 明人 氏
慶応義塾大学 総合政策学部 教授

 ワークエンゲージメントとは、蘭ユトレヒト大学のウィルマ―・B・シャウフェリ教授が提唱した概念で、島津教授がその調査票の日本語版開発と信頼性・妥当性の検証を手掛けている。ワークエンゲージメントは、働く人が自分の仕事に誇りを感じ、高い熱意を持って仕事に取り組み、そして仕事から活力を得ていきいきとしている状態を指す。経済産業省が認定する「健康経営優良法人2022」の認定基準項目にも、従業員の生産性や組織の活性度などを測る指標として、ワークエンゲージメントの定期的な測定が採用されている。

 島津教授によると、上司のワークエンゲージメントが高いと部下のワークエンゲージメントも高くなるという研究がある。また、大手小売業人事・売り上げデータをもとに各売り場で働く従業員のワークエンゲージメントと売上高の関係を調べた研究では、職場のエンゲージメントの平均値が高くなると売上高も増加した。一方で、職場内のワークエンゲージメントのばらつき(売り場ごとの標準偏差)が大きくなると売上高が低くなることが分かった。

 「売り場の中に熱意が高い人と低い人の両方がいると職場の雰囲気が悪くなり、かえって売り上げが下がると考えられる。チーム内で一部のエリートだけを引き上げるのではなくチーム全体のワークエンゲージメントを底上げしていくことが重要だ」と島津教授は指摘する。

「職場の強み」を定量化し可視化するワークショップ

 従業員の健康を推進し、組織全体を活性化させていくためには、様々な部門のコラボレーションが欠かせない。島津教授は、このコラボレーションを促進するために人事が取り組める仕掛けを2つ提案した。

 1つ目は、ストレスチェックを活用したポジティブアプローチだ。従来のストレスチェックは従業員のメンタルヘルス不調を見つけ出し、それを従業員のセルフケアや面接指導によって改善する、いわばネガティブアプローチだった。このポジティブアプローチでは、ワークエンゲージメントの規定要因の一つである「仕事の資源」に着目する。個人ごとではなく職場ごとにストレスチェック結果の集団的分析を行う。この集計結果をもとにワークショップで「職場の強み」を把握し、課題解決に向けた活動計画を作成し、実務で実践していく。

 仕事の資源が充実するとワークエンゲージメントが高まる。それには「上司からのサポートが十分得られている」「職場における信頼関係がある」「経営層との信頼関係がある」といった要素が挙げられる。また、仕事の資源が充実すると、従業員の心理的ストレス反応を下げる効果もある。「従来の職業性ストレス簡易調査票に、ワークエンゲージメントや仕事の資源を測定する23項目を追加した新職業性ストレス簡易調査票を厚生労働省研究班から発表している。これを用いると仕事の資源が充実しているかどうか、つまり『職場の強み』を定量的に可視化できる」と島津教授は話す。

(出所:島津教授の講演資料)
[画像のクリックで拡大表示]
(出所:島津教授の講演資料)