2020年から大手企業を中心に導入が相次ぐ「ジョブ型雇用」。日経BP総合研究所の調査によると、最も強い導入理由は「専門性を持つ人材を採用・育成する必要性が高まったから」で、回答者の57.7%が挙げている。だが専門性を高めるうえで、ジョブ型導入がベストの選択なのか。制度変更のリスクとメリットのトレードオフを冷静に見極め、制度は変えずに運用で専門性を高める工夫をする企業に聞いた。

(写真:123RF)

 「社員の専門性は高めたいが、そのために人事制度を抜本的に作り替える必要があるのか。母屋を建て替えなくても、別棟を加えるくらいで対応できるのでは」と語るのは、キッコーマン常務執行役員CHOの松﨑毅氏だ。

 同社はITや経理などを中心に、専門性の高い人材の採用を強化している。キャリア(中途)採用では、応募者のスキルや経験を見極めながら一定の職務に特化した専門人材を獲得している。新卒についても数年前から、営業、経理、マーケティング、人事など職務を特定した採用を始めた。

 ただし職務給やジョブ限定の人事制度の導入には踏み切っていない。「若手のIT人材に年収1000万円支給という企業の例も耳にするが、当社はまだそこまで踏み切れない。賃金と資格に関する制度が整っていない現状で、ジョブ型人材と以前からの社員の賃金格差が出てしまうと、社内の納得感が得られない可能性がある」と松﨑氏は懸念する。現時点でジョブ型に対応していくには、現行のコース区分とは異なるコース設計を検討している段階だ。

 前述の採用も、雇用契約は職務を特定した「限定正社員」ではなく、これまでと同様「無限定正社員」として契約を結んでいる。専門外への異動は原則的に行わないことを暗黙の了解としながらも、人事権は会社が持ち、社員の異動や転勤の可能性を担保する。