職務給のレンジを「はみ出す」社員が続出

 同社が全社員対象のジョブ型導入に慎重なのは、約20年前にグループ企業でジョブ型人事制度を実施した経験も影響している。「社員約150人(当時)の製造会社で職務給を導入してみたが、あまりうまくいかなかった」と松﨑氏は振り返る。

 この会社ではポストごとに職務給のレンジを決め、賃金テーブルを整備した。運用当初は該当社員の給与を賃金テーブルのレンジ内に収めていたが、数年後には社員の業務習熟度が上がり、多くの社員がレンジ上限に達してしまった。上のポストに空きが出ない限りは今のポストにとどまり昇給しない。

 給与が頭打ちになると社員のモチベーションが阻害されることが懸念された。そこでその会社では、各レンジの上限を超えた給与を支払うことにした。その結果、「職務と給与が賃金テーブル通りに対応しない例がどんどん増えていった。これでは職務型とはいえないので、実態に合わせて改定をした」と松﨑氏は振り返る。

 同社の事例は、人材流動化が欧米ほど進んでいない日本でジョブ型を導入することの難しさを示している。ジョブ型雇用では職務や役職が変わらない限り昇給もないため、上位のポストに就かないと給与が増えない。ポストが空く見込みがなければ、転職するしか給与アップの道はない。

 欧米では人材の流動化が進み、ダイナミックな労働市場が形成されているが、日本ではITなど一部の業界を除くとまだ人材流動化は進んでいない。こうした状況でジョブ型を導入し、待遇を固定化してしまうと、社員の成長へのモチベーションを阻害するだけでなく、企業にとっても退職した社員を代替する人材の確保が難しく、人手不足になりかねないというリスクをはらむ。

 「専門性を持つ社員でも、ずっと同じ領域、職務で働きたいとは限らない」と松﨑氏は指摘する。キッコーマンの社員には、弁護士資格を持つ社内弁護士がいる。資格を生かして独立する可能性も鑑みて専門職として遇してきたが、「この会社で働き続けたいので管理職になりたい」という本人の申し出を受けて、マネジメント職に変更したという事例もある。「専門性を生かせる業務アサインをしつつ、本人の志向の変化にも柔軟に対応していきたい」(松﨑氏)という理想像を実現するには、メンバーシップ型の良さを加味したジョブ型を検討していくことも必要かもしれない。