完全ジョブ型でなくともコースで多様なニーズに対応

 三井住友トラスト・ホールディングスも専門性の高い人材の育成を志向しつつ、現行制度は大きく変えない方針だ。

 年金や不動産、証券代行など幅広い商品を扱う同社は専門性の高い人材採用に注力している。年に約100~150人のキャリア採用では、募集時に専門性発揮を期待する業務領域を明確にしている。例年約400人の新卒採用のうち約20人は、アクチュアリー(年金数理人)、財務企画、リスク管理、IT・デジタル、不動産鑑定士、資産運用など入社後の業務を具体的に特定した採用だ。

 さらに同社はこの4月から定年を65歳に延長する。ここでのポイントは、60歳以降の給与体系において、職能型の給与体系ではなく職務給のみとした処遇だ。「60歳までの立場や役職よりも、その人材がこれまで培ってきたスキルや経験、強みに着眼して処遇を変動する仕組み」と語るのは、執行役常務兼執行役員の井谷太氏だ。

 「信託銀行では人材の専門性が求められるので、専門人材獲得は当グループの経営戦略上重要なテーマ。新卒採用から定年後までこれを当てはめることで、社員にも自分の専門性を身につけるインセンティブが働くようにした」と井谷氏は語る。とはいえ入社後の異動もあるため、「完全なジョブ型ではなく、ジョブ型とメンバーシップ型の“いいとこ取り”をした運用」(井谷氏)。

 同社の人事制度にはG・A・Rの3コースがある。G・Aコースは、勤務地域の限定有無が異なるが、共に業務範囲の限定はない。一方Rコースは、従事業務をリテール業務に限定している点に特色がある。

 さらにこのコース社員以外に、業務内容と勤務地を限定し、処遇体系も異なる「専門社員」もいる。「勤務地や仕事内容が変わらないほうがいい、という人はこちらの勤務形態を選べる」(井谷氏)。

 コース社員と専門社員は現在合わせて約1万人。そのうち、Rコースと専門社員は合計で約600人だ。Rコースや専門社員では職務をある程度限定し、Aコースは勤務地を限定、Gコースは無限定という区分だが、現時点ではこれ以上細分化する予定はない。

 「人事制度に弾力性を持たせた。オール・オア・ナッシングではなく、人材のタイプに合わせて様々なニーズに対応できる運用にしている」と井谷氏は語る。60歳未満の処遇は、職能型と職務型の2つの給与から成り立っており、メンバーシップ型の賃金体系も一部残るが、勤務形態を細かく分けることで選択肢を増やし、60歳以降も専門性を長期的に発揮できる仕組みを構築しているのが同グループの特徴だといえる。

 AコースからG、Rコースへのキャリアチャレンジも可能で、毎年誰でも応募できる。社員自らがキャリアの見直しができるよう、社内大学制度によるリカレント教育の場を作り、専門性やリベラルアーツを学ぶ機会も提供している。

 ジョブ型の導入だけが、すべての組織にとっての最適解というわけではない。メンバーシップ型の人事制度を残したままでも、運用によって専門性の高い人材育成や、多様な人材へのニーズにも十分対応できる。「ジョブ型神話」に踊らされることなく、自社の経営戦略と人事戦略をしっかり踏まえたうえで、制度や運用を見直していく必要があるだろう。