2020年に発表された「人材版伊藤レポート」では大きな目標の一つとして人的資本の最大化が掲げられた。そのためには、従業員が自らのキャリアを主体的にとらえてスキルを高め、キャリアを切り拓いていくことが必要となる。こうした従業員の意識と行動を「キャリアオーナーシップ」と定義し、先進企業8社が、キャリアオーナーシップ経営推進の具体的な施策とそのポイントについて1年間議論。22年3月、その活動報告をオンラインで公開した。

 人材を「人的資本(Human Capital)」として考えることは、働く人をスキルや経験をアップデートして成長し続ける「資本」だと捉えることに他ならない。2021年、パーソルキャリアは人的資本を最大化するための具体的な企業のアクションを議論する場として「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」を立ち上げた。第1期企業として参加したのはキリンホールディングス、KDDI、コクヨ、富士通、パーソルキャリア、三井情報、ヤフー、LIFULLの8社だ。同コンソーシアム顧問を務める、田中研之輔法政大学キャリアデザイン学部教授は「働く個人の力を最大化させるキャリアオーナーシップの取り組みを進めるには、個人と企業の新しい関係性を築く必要がある。あわせて、従業員の行動変容を促していくことが重要だ」と指摘する。

ウェビナーでは田中研之輔法政大学キャリアデザイン学部教授が講演した。(写真提供:パーソルキャリア)
ウェビナーでは田中研之輔法政大学キャリアデザイン学部教授が講演した。(写真提供:パーソルキャリア)

従業員の行動変容を促していく3つの視点

 活動報告では、3つの視点に沿ってこの8社の取り組みが披露された。1つ目の視点が、データによって従業員のキャリアと事業にどれだけ貢献しているかを可視化することだ。例えば、LIFULLでは月次でウェルビーイングを測るアンケートを実施、タレントマネジメントシステムで従業員のキャリアビジョンや経験を一元管理する。

 2つ目の視点は、キャリアオーナーシップ人材を増やしていくことだ。この取り組みに注力する企業は多い。多くの企業も採用する施策として、日本企業でいち早く1on1を取り入れたヤフーの取り組みがある。上司と部下が定期的に行う1on1は同社のキャリア設計支援の要になっている。

 またキャリアの幅を拡げる機会創出として、キリンでは従業員の社外副業を解禁、手挙げによる社内ダブルワーク(副業)のトライアルを始めた。三井情報では、田中研之輔法政大学教授が従業員と直接対話する公募制セミナー「MKIキャリアフォーラム」を開催。そこから自発的に従業員のコミュニティも発足しているという。

 さらに、従業員同士で教え学びあう企業内大学を運営する例も増えている。ほとんどのゼミで社員が講師を務めるLIFULL大学(LIFULL)のほか、経営層が講師や評価などで参画するYahoo!アカデミア(ヤフー)や、マーケティング大学(コクヨ)の取り組みも挙げられた。

 そして3つ目の視点が、個人のキャリアを経営・事業にいかにつないでいくかということだ。言い換えると、「人材版伊藤レポート」で指摘されているように経営戦略と人事戦略をどのように連動させていくかという観点でもある。KDDIでは事業視点での人材要件を定義し「人財ポートフォリオ」を策定、30の専門領域・レベルを一覧化した。事業部門と人事部門が連携して、人材のスキル、職種、人数などを可視化し把握している。また、富士通では一般社員から本部長までをポスティングできる枠に設定。ポスト募集/応募の実績も積みあがってきているという。

 22年からスタートする第2期では、キャリアオーナーシップ経営推進の取り組みが事業価値を高めていっているかどうかを検証していく。一人ひとりのキャリア形成と会社の方向性をどうすり合わせていくかがポイントとなりそうだ。これを田中研之輔法政大学教授は「個人と企業の関係性を最善化すること」だと指摘する。第1期企業の8社からは次の課題として、メンバーと直接接するマネジャー層への支援、自社におけるキャリアオーナーシップの定義と測定などが挙げられた。

(写真提供:パーソルキャリア)
(写真提供:パーソルキャリア)