テレワークで社員同士が顔を合わせる機会が減る中、シンプルな調査を高頻度で行う「パルスサーベイ」への注目が集まっている。社員の心身の状況を把握したり、会社への要望を聞いたりして人事施策などに反映し、社員の不安な心に寄り添う。SAPジャパンの取り組みを聞いた。
(写真:123RF)

 「社員意識調査を毎年実施しているが、社員エンゲージメントをきめ細かく把握するため、パルスサーベイ実施も準備中」。

 三井住友トラスト・ホールディングスの井谷太執行役常務兼執行役員は2020年10月26日Human Capital Online掲載のインタビューでこう語った。

 パルスサーベイとは、簡易な社員調査を高頻度で実施すること。パルス(脈拍)を測るように日常的に社員と組織の状況をチェックする。コロナ禍の終息が見えず、健康や仕事について不安を抱える社員は少なくない。一方でテレワークが普及し、社員同士が「顔」を合わせる機会が減り、上司や同僚に気軽に相談したり、悩みを聞いてもらったりすることは難しくなっている。こうした環境下で、会社が社員の心身の状況を把握したり、会社への要望を聞いたりする手段としてパルスサーベイに注目が集まっている。

 以前から「社員意識調査」「社員満足度調査」などを実施している企業は多いが、多面的に社員の意識や会社との関係を聞くため、多くの質問を盛り込んで年1回実施するというやり方が一般的だった。こうした調査は継続しつつ、新たにパルスサーベイを実施して、頻繁に社員の声を聴いてクイックに対策を打つことで、エンゲージメントを高めていくのがウイズコロナの経営の一つの型になりそうだ。

少数派の声にも耳を傾ける

 SAPジャパン(東京・千代田)は、グループ会社のクアルトリクス(東京・千代田)が提供するクラウドサービスを活用してパルスサーベイを実施している。2020年2月に新型コロナ対策として全社員が原則テレワークとなって以降、3月、4月、6月、8月の4回にわたって調査を実施。6月と8月の調査では、アフターコロナにどのような働き方をしたいかを社員に聞いている。

 調査を企画、実施する社長室社員エンゲージメントリードの鎌田祐生紀氏は「今後もテレワークを実施するかは未定、コロナ後の新しい働き方も模索中で、まずはウイズコロナ環境をどう乗り切るか、そして来年以降どうするかを考えるうえで、社員の率直な意見を聞き取っている」と話す。

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SAPジャパン社長室社員エンゲージメントリードの鎌田祐生紀氏

 6月の調査結果では「出社と在宅を半々にしたい」とする社員が4割強に上った。8月の調査では郊外への転居を検討したり、時々ワーケーション(休暇のための場所で仕事をすること)をすることを希望したりしている社員が一定数いることが確認できた。

 調査の目的は「どのような意見が大勢を占めているか」を知ることではない。むしろ「新しい働き方について不安や疑問を感じている人の声を聞き取り、それに応えたり解決するアクションを起こすことを重視している」(鎌田氏)という。

 4月に実施した「COVID pulseサーベイ」では「3月上旬と比べて今の気分はどうか」という質問を設け、「悪化している」と回答した社員のフリーコメントを分析して悪化の原因を探り、対策を打った。例えば気分が悪化した人のコメントからビジネスへの不安が多く読み取れたことから、「会社の業績が悪化してビジネスが継続しなくなる」ことへの不安が増大していると判断。通常は4半期に1回の頻度で開催する全社会議を、4~5月で3回実施し、事業継続に問題がないことを鈴木洋史社長が説明したり、サーベイに寄せられた約170の全質問に対して役員が回答したりして不安を和らげた。さらに人事部門による「お悩み相談ラウンジ」の開催や、全マネジャーによるディスカッションの実施なども進めた。

 同じ調査ではテレワーク下で困っている人の意見として「知らない人に声を掛けられない」「入社したばかりの人が孤立しがち」「OJT機会も減少」などが上がった。こうした課題への対応として、週に1~2回時間を決めてチーム全員がZoomルームに入りっぱなしになり、雑談や質問がしやすいオンライン井戸端会議の場を試験的に設けたチームもあるという。

 こうした対策を迅速に打てたのは、クアルトリクスのサーベイツールの機能にも依拠している。複数の質問の相関関係を即時に明らかにできるため、「不安を感じている社員」「テレワークにネガティブな社員」などを抽出し、その理由を分析することも容易になる。さらに課題に対するアクションの典型例もあらかじめインプットされているため、対応のスピードも上がる。

「聞きっぱなし」では逆効果

 テレワーク環境下で社員同士が直接会う機会が減ったため、それを補うため導入が進むパルスサーベイだが、人事部門にとっては、対面以上に深く社員の声を聴ける可能性を持つツールにもなりうる。リアルなミーティングなどではとかく「声の大きい人」「存在感のある部門」の意見が前面に出がちだが、パルスサーベイでは等しく全社員の声を集めることができ、様々な切り口で意見を抽出することもできる。

 ただし意見を聞きっぱなし、集めっぱなしで対策を打たなければ社員を失望させ、声も上がってこなくなる。SAPのように社長や役員が説明する場を持つことは、オンライン環境ならリアルより容易に実現できる。頻繁に声を吸い上げ、アクションを起こせば、テレワーク環境でも社員のエンゲージメントを高められるはずだ。