対面できないテレワーク環境ではデジタルツールによるコミュニケーションが必須。なかでも手軽に使えて対話の履歴を分かりやすく追える「チャット」の浸透は目覚ましい。ただし意思疎通が不十分でトラブルが生まれることも。Slackに上手な使い方を聞いた。

 連載第6回は、コミュニケーションツールに着目します。

 個人が働き手として組織に所属する理由とは、一人ではできない大きな仕事をするためです。既存企業に就職しても、起業してもこれは同じです。そこには必ずコミュニケーションが存在します。

 コロナ禍によって、それまで一部の先進企業だけが取り入れていた“新しいコミュニケーションスタイル”が広く浸透し、“当たり前のコミュニケーションスタイル”になりました。

 その最たるものが米Slack Technologies,Inc(以下「Slack社」)が提供する「Slack」に代表されるビジネス用のメッセージプラットフォームです。いわゆるチャットツールですね。私(河野)も、コロナ禍以前から日常のコミュニケーションをSlackに頼っていました。今や関与している会社やプロジェクトのコミュニケーションのうち、会議以外のほぼ99%のやりとりをSlackを通じて行なっています。

 もともとSlackを活用していたのでリモートワークへの移行もスムーズに進むなど、チャットツールの利点は大いに享受してきました。しかし、時間が経つにつれ、コミュニケーション不足や誤解に基づくトラブルが増えていることも実感しています。チャットツールに起因するトラブルではなく、対面のコミュニケーションの減少が原因であるのは明らかです。経営者やプロジェクトリーダーとしての立場から、ちょっとしたトラブルではなく会社経営上、プロジェクト運営上の課題やリスクと捉えるべきだとすら考えています。

 こうした問題意識をベースに、Slack Japanの溝口宗太郎さんと対談しました。Slackのユーザーがこうした課題にどう取り組んでいるのか、またコミュニケーションをより円滑に進めるためにSlackがどう進化しているのかをお聞きします。

2020年3月から完全リモート、「Slack on Slack」で自らも改革

河野: 僕が取締役COOとして関与するアイデミーは、現在50人規模のスタートアップで、AI/DX人材育成のeラーニングやAI/DXの実行支援を手掛けています。コロナ禍で完全リモートワークになりましたが、元々若い会社でリモートワークやデジタル・コミュニケーションに慣れていたこともあってスムーズに移行できました。

 しかし6月ごろから心身に不調を来すメンバーが増え始めました。経営者としてエンゲージメント調査の導入やオンラインでの1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングなどを推進して、この課題に対処してきました。

 その結果、Slackは使いこなしているものの、文字中心のコミュニケーションが原因のいさかいや、コミュニケーション・ロスが生まれていることが分かりました。オープンなチャットの文字記録には、証拠能力があるがゆえにトラブルに発展するケースもあります。

 この状況を、それこそSlackを使って改善できないかというのが今回貴社にインタビューをお願いした背景です。まずは、文字通り今の働き方をリードしているSlack社が、実現したい未来についてお聞かせください。

溝口: 「皆さんのビジネスライフをよりシンプルに、より快適に、より有意義に」というのがSlack社の目指す姿です。ありとあらゆる企業の皆さんに、透明性高く、組織階層はあってもコミュニケーション上はフラットにする土壌を作り、生産性を高めイノベーションを実現することに貢献したいと考えています。

 私が良い組織に例えるのは、飛行機のアクロバットの編隊飛行です。なぜきれいに編隊で飛べるのか。操縦技能の高さはもちろんのこと、お互いが見えているから、曲がるときに一緒に曲がり、回転するときに一緒に回転できるのです。前後左右が見えている状態というのは、会社で言うと透明性が高く、隣の事業部が何をしているか分かっている状態です。一つの方向に進んでいくことで(アクロバットの編隊飛行の演技のように)人の心を魅了する成果を出せると思うのです。Slackの提供によってお客様の会社をそうできればいいと思っています。

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Slack Japan エグゼクティブプログラム本部 シニアマネージャー 溝口 宗太郎 氏
日本マイクロソフトで8年8カ月Windowsの製品マーケティングに携わった後、FinTechスタートアップ、SAPジャパンを経て、2018年3月にSlack Japanに参加。エグゼクティブプログラム担当。企業の経営層に対してSlackの思想やビジョンをわかりやすく紹介し、顧客と一緒に組織の課題を解決する役割を担う

河野: その理念を商品開発にどう反映しているのでしょうか?

溝口: お客様の声をプロダクトに強く反映しています。私はかつてITの大企業にいましたが、顧客の声を反映するのにはやはり時間がかかりました。それと比べてSlackは、まだ全世界で2千人あまりの組織ではあるものの、とても速い開発サイクルでお客様の声を取り入れながら組織として急速に進化を遂げています。最新のアジャイル開発を組織全体で体現している、という言い方が合うと思います。  日本のオフィスでは昨年2月から、全世界でも3月から全従業員が在宅勤務になりました。開発も運用も在宅で実施しています。お客様に提供する柔軟な働き方を我々自身が実践しているのです。

河野: お客様に提供する前に自分たちで使ってノウハウを蓄え、それを展開するということですね?

溝口: おっしゃる通りです。社内では「Slack on Slack」と呼んでいて、自分たちでやってみたやり方をお客様に提案する姿勢を推奨しています。

河野: コロナ禍でリモートワークが主流になるなか、極論すれば仕事の8割くらいはSlackなどのチャットツールによるコミュニケーションでしょう。コミュニケーションは組織文化の象徴です。そう考えるとSlackの活用とは経営そのものであるとさえ思います。当社のような会社は増えているのでしょうか

溝口: 大変ありがたいことに、引き合いをいただく件数は激増しています。「在宅勤務に移行すると、メール中心の古いコミュニケーション手法ではやっていけない」という言葉をお客様からよく聞きます。

 以前からビジネスチャットというカテゴリーの製品やサービスはありました。しかし、コミュニケーションがクローズド、例えばチャンネルが招待制で呼ばれないと入れないといったものが多かったのです。Slackはパブリックチャンネルを利用したオープンなコミュニケーションというポリシーを推進しており、ビジネス用のメッセージプラットフォームの提供によってその課題を解決しています。

 こうしたプラス面がある一方で、急に在宅勤務に移行したので、それまでの利用ノウハウがないのに突然Slack導入と言われても「つらい」というお客様も多くおられます。

 実は、我々自身もコロナの前はリモートワークをしていませんでした。我々のスローガンは「Work hard and Go home」、朝から出社してハードに働き、仕事が終わったらすぐ家に帰る、というものです。Slackというデジタルツールを提供しながらも、アナログな接触を重視し、対面でしか伝わらないニュアンス、セレンディピティ(偶察力)を大事にしていたので、皆会社に来ていたのです。

 それが突然コロナ禍で強制的に在宅ワークに移行しました。最初は戸惑うかと思ったのですが、今日で380日目だが、意外とうまくやれています。やってみれば何とかなるものです。