2020年7月に新しい働き方のコンセプト「Work Life Shift(WLS)」を発表し、変革ののろしを上げた富士通。2年弱を経た2022年3月には『ワーク・シフト』などで知られるリンダ・グラットン氏の会社と共同で「ハイブリッドワークの未来」という調査レポートを発表した。そこで描かれた未来の働き方を聞きつつ、富士通の変革の進捗にも迫る。

 2020年代を働き方黄金期にしようというこの連載。

 2020年初頭に始まったコロナ禍を受けた、強制的なリモートワークの直後は、一気にフルリモートの時代に舵を切った組織も増えました。「やってみればできるじゃないか」「思った以上に(思った通り?)効果が高い」と言う声がある一方で、しばらくすると課題も浮き彫りになりました。

 そして、2022年現在、世界中を巻き込んで行われた壮大な働き方にまつわる社会実験の結論として、フルリモートでもフルリアルでもない、“ハイブリッドワーク”と言うコンセプトに落ち着きつつあるように見えます。

 このテーマに関するさまざまな提言や実験結果が、各社から発信されています。今回はその中でも、富士通が2022年3月に発表した「ハイブリッドワークの未来へ」という調査レポートに着目してみたいと思います。このレポートは、ベストセラー『ワーク・シフト』『ライフ・シフト』で知られるロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授によって設立されたHSMアドバイザリーと、富士通が共同で作成しました。ハイブリッドワークを企業の組織文化改革の一環と位置付け、従業員エンゲージメントや業績向上、株式市場からの評価につなげているように見えます。

 お話を伺うのは、富士通でCHROの補佐として当調査のみならず一連の働き方の変革全体をリードしてきた、森川学さんです。

伝統的な日本組織の象徴が変わった

河野英太郎氏(以下、河野):私は最近、働き方ウォッチャーとして、さまざまな機会にハイブリッドワーク(リモートとリアルを融合させた働き方)について考えたり発信したりすることが増えています。同時に、経営者としてはこの数年間、組織の目標を達成するためにはどのような働き方が最適なのかを、模索し続けてきました。

 今後どのようなテクノロジーが出てくるか分かりませんが、世界的に見ても現時点での解は、フルリモートでもなく、完全オフィス出社のフルリアルでもない、“ハイブリッドワーク”ではないかと考えています。そんな前提のもと、今回の富士通の改革を担った森川さんにお話をうかがっていきたいと思います。

 私もかつて日本IBMに15年ほど在籍しており、競合の1社として富士通を見ていました。正直言えば当時は、古い伝統的な日本の組織の象徴、今のネットスラングで言えば“JTC(Japanese Traditional Companies)”の典型のような組織という印象を強く持っていました。しかし、今回このインタビューに先立って様々な情報を集める中で、当時抱いていた富士通の印象と全く異なる、非常にポジティブなイメージが私の中に出来上がったことに我ながら大変驚いています。

 近年はエグゼクティブ層に外部から登用した人材も増えており、現在執行役員常務CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の山本多絵子さんは私のIBM時代の同僚です。そのニュースを聞いたときは「おおっ」と思いましたが、それもまた富士通が大きく変わる象徴だったのかもしれませんね。

 組織文化改革においても、“外部の知見”は一つのキーワードだと思っています。今回はレポートの話を中心に聞きますが、私もキャリアにおいて自社や顧客の組織変革に多く携わってきたので、富士通の改革にとても興味があります。会社の文化を変えるところまで着手して、さらに次のステップに進むためのこのレポートなのかなとも想像しています。

 ではまずは森川さんのプロフィールを教えていただけますか?

森川学氏(以下、森川):2006年に中途入社で富士通に加わりました。前職は日系の半導体メーカーです。富士通では人事畑でHRBPや幹部職の人事制度企画、役員報酬設計などを担当し、ドイツに5年駐在。帰国後労政部で労働組合対応も経験して、カウンターである労組と一緒にやらないと変えられないことも多いということを改めて学びました。そして一昨年、平松(浩樹執行役員常務)とCHRO室を立ち上げ、グローバルで通用する人事制度を目指してきました。

富士通CHRO室 室長 森川学氏    
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富士通CHRO室 室長 森川学氏    
2006年、富士通株式会社に入社。2014年よりドイツ ミュンヘンに約4年間駐在し、欧州エリアの人事を担当。2018年労政部シニアディレクターとして、一般社員人事制度の企画および労働組合のカウンターとして各種労使交渉にあたる。2020年4月以降管理職のジョブ型人事制度導入に携わるとともに、ニューノーマルにおける新しい働き方「Work Life Shift」の企画を担当。21年4月より現職