仕事をやらない人、できない人が多いのが普通

高野:経営幹部として採用された人のなかには、その仕事内容を勘違いしている人もいます。②の状態ですね。「管理だけする管理職」というのはベンチャーには存在しません。もちろん企業規模がすごく大きくなって楽天さんみたいになれば別ですが、上場前後のところまでは原則としてプレーイングマネジャーになるんです。そこがずれちゃっているとなかなか難しい。「資料は部下に作ってほしい」と言われても、「いや、率先垂範してそこを“型化”するのが上の人の仕事です」と言わざるを得ない。

 仕事の守備範囲を勘違いする③のケースもありますね。経理や営業で入った人でも、その職能だけやっていればいい、というのはありえない。それだと、スタートアップは1人分の給料は払えないのです。経理の人が経営管理もちょっとできるようになるといったように、周辺の業務を拾っていけるみたいな人がベンチャーに向いている。「それは入社前に聞いてない仕事です」となってしまうと、ベンチャーとしては難しい。外資から来た人によくある話です。「それをやるのは聞いてない。それをやるならこれくらいの給料ほしい」と言われても対応できないわけです。

 ④ の交際費や経費問題もあります。大手企業はたくさんお持ちですが、ベンチャーはほとんどないところが大半です。これも意外と大きな問題になります。ただ、交際費を使うことでちゃんと売り上げが上がると示せるなら、ベンチャーでも予算を確保すべきだと思います。

河野:⑤の「会社で一緒に働く仲間への期待値を勘違い」とはどういうことですか。

高野:スタートアップで働き始めると、周囲の人が自分の想定よりも仕事ができなくて驚くことがよくあるのです。言ったことをやらない人が多いとか。特に投資銀行とコンサル出身の人が一番苦戦するところです。こうした会社では言ったことをやらない人はすぐクビになってしまうので、そういう人と仕事をした経験がないんですよね。

 入社前にも一応それは話していますが、それでも入社後に「仕事のできない人たちをどうしたらいいでしょうか」っていう相談を受けることは多いですね。「社長とちゃんと握っておいてください」とお伝えします。スタートアップの社長は、たたき上げの人が多く、若くして起業して比較対象が少ないので、部下が仕事をできているのか、できてないのか、把握できないのです。

河野:僕自身は、不思議なほどスタートアップになじんでいるので現時点でスタートアップ側の視点になっていますが、それでも、いろいろ思い当たる節があります。言えないことが多いですが。まあ、言えることとしては……寝坊して朝10時とか11時に出社する人がいるのには、慣れるまでは困りましたね。

高野:プロ野球の野村(克也)監督を目指さなきゃいけない部分もあるのです。巨人のような一流企業でちゃんと活躍できる人を揃えるのは、ベンチャーでは難しい。再生工場じゃないですが、現有戦力を使ってどう戦うかを考えるのです。

 そうすると、人に依存せず、プロダクトやサービスの仕組みで担保して、業績を伸ばしていくことになるわけです。人で担保するビジネスの場合は、相当慎重に人を選んでいかなければなりません。もちろん、仕組みも人もどっちもいいに越したことはなくて、多分GAFAMはそうなっているのですが、これは本当に難しくてどっちかに偏っているのが実情です。

中途半端なストックオプションの知識がトラブルの元

高野:⑥は前職でもらっていた、大企業のプレミアムのついた年収を自分の実力と勘違いするケース。それまでの給料が1000万とか1500万の人も最初は600万ぐらいになります。むしろ、600万円でも多い方なんです。(事業ステージの初期である)シリーズA未満だとそれくらいしかもらえません。

 最近は10億~100億円単位で調達できる企業が増えてきて、年収1000万とか1500万みたいなレンジの人も存在していますが、そういう人たちは前職でたくさんもらっている人が多い。例えばCFOだったら3000万から5000万ぐらい前もらっていて、今は下げて1350万といった感じです。大企業での年収は、市場価値に照らし合わせると高すぎるケースが多いのです。

 最後の⑦はストックオプション(SO)の勘違い。この10年くらいで「スタートアップに入るとSOをもらえる」という認識はすごく普及して、詳しい人は信託型SOなどについても知っていたりします。ただ会計職とかCxOレベルの人以外はあまり正確に理解していません。全体の何%をもらえるのか分からないと意味がないのに、それを知らなかったり、「生株ください」「いや、あなた入ったばかりでまだ何もやってないですよね」なんて会話があったり。ベンチャー側の常識と、転職希望者の常識がずれたりしているのが現状です。

 僕はスタートアップへの転職希望者には必ず「受ける会社がベンチマークしているような企業の有価証券報告書はちゃんと読んでほしい」と言っています。適当に考えるのではなくファクトから見て、「自分が狙っているA社では、このポジションの人がこのぐらいもらっていて、自分もこの人の役割ぐらいを果たせる自信があるから、このぐらいを要求したい」というのでしたら、それが通るかは別として、検討の俎上に上がります。でも何も考えずに「SOください」って言われても、「いやいやそれはちょっとできませんよ」となってしまいます。

 SOは出す側にもいろんな課題がある。僕に言わせると、SOをもらうべきではない人にも渡してしまっている会社が多いので、リテラシーがない人はやはり勘違いしてしまうと思います。

 一方で、SOは全社員に経営参画意識を持ってほしいという経営のメッセージであり、ポジティブな要素もめちゃくちゃ多いのですが……。やはり誤解している人が多いです。

河野:その手の勘違いに基づくトラブルっぽいことがありますね。本当に大変だと思います。社会全体で学んでいくしかないですね。

幹部転職成功のカギは「社長と凹凸になれるか」

河野:「スタートアップあるある」な話ばかりで、実例が大量に思い浮かびます。一方で、アイデミーでも「なんで、こんな小さな会社で、こんなすごい人が採用できるんだ」と思うような成功事例が複数あるのです。「こうするといいんじゃないの」っていうところもぜひ教えてください。

高野:うまくいっているケースは、会社や社長のビジョンに対する共感がある人を採用するケースですね。ある程度「この人についていこう」という組織感覚がない人を採ってしまうと、批判分子になりがちです。大きい会社なら窓際にいてもらってもいいかもしれませんが、小さい会社でそういう人がいると仕事が回りません。採用時に十分に話し合って、ちゃんとやってくれそうな人を採っている会社がうまくいっているのでは。

 河野さんのところもそうかもしれませんが、社長が苦手なことを補完する関係になると、特に幹部転職はうまくいきます。ぼくはよく凹凸の関係って言うのですが。例えば金融出身の社長の下で働くCFOの人とか、絶対大変なんですよ。社長が数字にすごく詳しいので。

河野:僕の場合、アイデミーに最初に入った時は、実は業務委託だったのです。フルタイムだと給料が大幅に下がるので、自分で副業をやってそっちで生活費を稼げばできるな、と。だんだん関与が深まって「フルタイムでお願いできませんか」と言われ続けている中で、出資するタイミングがあったのです。出資して、当事者になった瞬間にやっぱり考え方が変わりました。少額の出資かもしれないけど「これがゼロになるかも」と思った瞬間が何度もあって、「いや、これ自分が入らなきゃやばい」と思って入社したわけです。アイデミー社長の石川(聡彦)さんの得意とする領域と僕の経験が補完関係にあったということもありますね。

高野:業務委託から入るというのはすごくよくて、私もそういう転職の支援をしたことはありますが、それができる方はかなり少ないのが実情です。そもそも副業できるようなレベルに達している人がそんなに多くはありませんから。逆に言うと「この人まさかフルタイムで働いてくれないよね」みたいな人を口説くのが、社長の大事な仕事になります。

 僕の知っているケースでは、既に起業していた技術者を、社長が口説き続けてCTOとして獲得した例があります。真剣に言われるから、悪い気はしない。ここまで言ってくださるありがたい話だなって思う。文字通りネバーギブアップですよ。スタートアップには「人がいない、人がいない」って言う人が多いんですが、探せばちゃんといる。でも相手の人には事情があってすぐには入れない。そういう状況からどうするか、が勝負です。

 あと、やはり事業が伸び続けているということはとても大事です。売り上げが全てを癒すじゃないんですけど、会社が伸びていれば、今日口説けなくても1年後、2年後には口説けるっていうのはよくあります。私の前職では10年かけて口説かれて入った役員がいましたよ。