「今はできない理由」が道標を創り出す

 TOCには、達成が困難に思えるような高い目標を達成するための手順を考えるための道具があります。それが「アンビシャス・ターゲット・ツリー(ATT)」です。ATを達成するまでの中間目標を設定することが、ATTの大きな特徴です。前回の記事で紹介した20代後半の技術者の事例で、中間目標を設定するプロセスを説明します。

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(1)「10年後の目標」を書く
 まずは、達成したい目標を書きます。前回の事例では、20代後半の技術者のATとして「あれは私がやったと誇れる製品を世の中に出す」というものを設定しました。

(2)「今はできない理由」を考える
 次に、目標を達成することが「今はできない理由」を考えます。ATを設定するプロセスと同様に、ここでもマイナス、すなわちUDEを起点にすることが大切です。上司から「できない理由ばかり言うな!」と𠮟責(しっせき)された方もいるかもしれませんが、できない理由を明言できるのは目標達成を真剣に考えているからこそです。10年後の目標ですから、今はできないのは当たり前。だから気軽に「今はできない理由」を考えていきましょう。
 20代後半の技術者の事例では「あれは私がやったと誇れる商品を世の中に出す」ことが今はできない理由として、「何を開発するか目標がまだない」「技術力がない」「新事業を立ち上げる経験が足りない」――という3つが挙げられました。できない理由を考えていると、最初はちょっと気がめいってくるかもしれません。でも、目標の達成を阻む障害があらかじめ分かっていれば、前もって対処することが可能になります。

(3)「どのような状況になればいいか」を考える
 目標達成の障害が明らかになったら、これらを使って「どのような状況になればいいか」という未来を考えます。ATを設定したプロセスと同様に、UDEをテコに「望ましい現象(Desirable Effect:DE、ディーイーと読む)」を考えていくわけです。
 ここで留意していただきたいのは、UDEを解消する手段(行動)を考えるわけではないことです。それぞれのUDEに対して解消策を考えることは対症療法であり、副作用として新たなUDEを生み出す恐れがありますし、必ずしもATの達成に近づいているわけではないからです。
 一方で、UDEを活用して「どういう状況になればいいか」、すなわちDEを考えると10年後の目標を達成するための道標が出来上がるわけです。このDEをTOCでは「中間目標(Intermediate Objectives)」と名付けています。今回の事例では「今はできない理由」のそれぞれに対して「すごい製品開発の目標がある」「必要な技術力がある」「事業を立ち上げる知識がある」という中間目標が浮かび上がりました。

(4)「何をするか?」を考える
 中間目標が見えたらしめたもの。ここで初めて、これらの中間目標を達成する手段(行動)を考えます。マイナスを解消することを考えるよりも、プラスを実現する方法を考えた方が楽しいですよね。「何を開発するか目標がない」「技術力が足りない」「新事業を立ち上げる経験が足りない」というマイナスを解消する方法を考えるのと、「すごい製品の開発目標がある」「必要な技術力がある」「事業を立ち上げる知識がある」というプラスを実現する方法を考えるのでは、どちらが楽しいかは明らかでしょう。
 今回の事例では、それぞれの中間目標を達成する行動として「世の中をWOW!と言わせる高い目標を見つける」「必要な技術力を身に着ける」「新事業開発に参加する」――という3つを設定しました。

(5)「中間目標を達成する順序」を考える
 中間目標が設定できたら、どのような順序で達成に取り組んでいくかを考えます。自分が実現したい順序に並び替えて、一つひとつ達成していくことで、高い目標を達成するためのワクワクするジャーニーが始まるわけです。今回の事例では、次の順序で中間目標を達成することにしました。
 まずは「必要な技術力がある」という中間目標を達成するために、日々の仕事の中で「必要な技術力を身に着ける」ことに集中します。次に、それを土台として「事業を立ち上げる知識がある」という中間目標を達成するために「新事業開発に参加する」ことに集中します。さらに、それを土台にして「すごい製品開発の目標がある」という中間目標を達成するために「世の中をWOW!と言わせる高い目標を見つける」という手順を考えました。この例では、中間目標の達成の順序を直列にしましたが、同時に達成可能な中間目標があれば、並列にしても構いません。

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