一人ひとりのATを全従業員で共有する

 一足飛びに10年後の目標を達成するのは難しいですが、それに到達するための中間目標が見えると、人はやる気になるものです。これによって内発的動機付けがさらに強化されることになります。「人生の目標」と「仕事の目標」がオーバーラップした目標を達成するための中間目標ですから、日常のささいな情報でも活用できるのではないかと考えるようになり、毎日が意義のある日々に変わっていくことを実感するでしょう。

 上司も、本人が決めた「10年後の目標」に向けて仕事を与えやすくなり、成長をナビゲーションできるようになります。チャレンジングな仕事でも喜んで挑戦してくれる頼もしい部下がどんどん育っていくことになるでしょう。

 下の写真は私たちの会社において、ある従業員を対象に成長の進捗度合いを議論している様子です。一般的な企業の人事制度に例えると、目標設定の人事面談のようなものだと考えれば、この場の役割をご理解いただけるかもしれません。人事面談というと個室で上司と部下がマン・ツー・マンで実施するというイメージがあるかもしれませんが、私たちはチームで互いの成長を助け合っています。

「成長ナビ」で右端の従業員の成長を議論している様子(写真提供:ゴールドラット ジャパン)

 私たちの会社では個々の従業員がATを設定し、それを全従業員で共有しています。ATとして掲げた高い目標は、所属する組織や世の中を良くすることにつながるので、互いに成長を支援するような風土が生まれます。成長を妨げる障害は、個々に違うと思いがちですが、実は似たような轍(わだち)にはまることが多いのです。似たような轍にはまった仲間がどうやってそこから抜け出したか、その轍にはまらないためにどうしたらよいかをチームで議論し、共有します。こうして、成長を助け合う風土が醸成されていくわけです。

成長ナビは人的資本経営にも寄与

 現在、人事に関わる人たちの間では「人的資本経営」に大きな注目が集まっています。米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して「人的資本の情報開示」を義務づけたことがきっかけとなっていますが、人的資本経営の本質は従業員の仕事に対するエンゲージメントを高めて成長を促すことです。内発的動機付けを生み出した上で高い目標へ向かって成長を促す「成長ナビ」は、この本質に合致した道具だと考えています。

 「成長ナビ」の良いところは、すぐに現場で活用できることです。全社的に導入しなくても、部署内やチーム内で運用することも可能ですし、個人的に部下との間でスタートすることが可能です。「今はできない理由」を活用して「できる道筋」をつくるのは、本当に痛快で楽しい作業です。「10年後の目標」に向かって一歩踏み出すためにも「今はできない理由」をリストアップすることから始めませんか?

 ゴールドラット ジャパンは、YouTubeの「Goldratt Channel」の中の「金の知恵入門」(https://bit.ly/3oUQgYd)でTOCの知識体系を毎週金曜日に配信しています(「ゴールドラット」には「金の知恵」という意味もあります)。下記のタイトル動画をご覧いただくと、成長ナビを説明した前回と今回の連載内容の深い理解につながると思います。ぜひ、ご覧ください。

・やってはいけない人生の目標設定とは?
・達成不可能と思える目標がなぜ良い目標なのか?
・ずっと頑張っているのに充実感がないのはなぜ?
・手段と目的を履き違えるのはなぜ?